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2015.08/03 未だ科学は発展途上(13)

科学で解明された情報を技術開発で活用することができる。しかし、解明されていない現象から機能を取り出し活用しようとするときに科学的手法ではうまくゆかない場合がある。分析や解析の問題ですら優秀な担当者は科学的手法でミスを犯した、と書いた。

 

科学的に解明されている情報と解明されていない情報は明確に区別し、それを整理して知識としていなければ、技術開発で失敗するリスクが高まる。科学で解明されているのかどうか不明な場合には、専門家に尋ねて問題解決する。

 

酸化スズゾルの知識を獲得するために、15名ほどのアカデミアの専門家にヒアリングした。その時アカデミアの偉い先生にも怪しい研究者が多数いることを知り、怪しいと思われる情報で手持ちのデータベースの整理ができた。

 

15名の専門家にヒアリングしなければならなかったのは、専門家が玉石混交状態で最初の2名のヒアリングで真理が見えなかったからだ。大抵の問題は2-3人の専門家をヒアリングすると情報が集まるのだが、無機の結晶と非晶の問題は科学的に極めて怪しい問題であり(特に非晶の問題だが)情報の信頼性をあげるため母集団を大きくする必要があった。

 

科学の世界では、真理は大切に扱われなければならない。ゆえに知識があやふやな場合には、知らないという回答か、その問題について答えられる先生を紹介してくれる専門家が頼りになる。その分野の権威だから何でも知っている、と間違った情報を教えられたのではたまったものではない。だから科学の知識は複数の専門家に聞いてみることが重要である。これを繰り返していると、信頼できる専門家がわかってくる。ちなみにこの欄の情報は当方の経験知である点に注意して読んでいただきたい。

 

結晶という言葉に関しても、無定義用語に近いと教えてくださった先生は数少ない(注)。結晶と非晶の境界はあいまいで、さらにナノ結晶という言葉が当方の知識の整理を邪魔した。結晶にまつわる教科書を多数調べると、結晶とは鉱物学から出てきた言葉であり、未だ明確な定義がなされていないようだ。

 

5000層以上の規則正しさを持っているものを結晶という、と明確に断っている教科書もあれば、数層の規則正しさでナノ結晶と呼び、これも結晶の仲間に入れている教科書もある。ガラス以外の非晶性無機材料を注意深く観察すると、その程度のナノ結晶を容易に見つけることができ、ナノ結晶を結晶として認めると世の中に完全な非晶性材料というものは無機のガラスだけになってしまう。

 

ちなみにガラスとは非晶性材料の中でガラス転移点を持つ材料のことで、このような定義すらすぐに答えられないアカデミアの先生を見つけたときにはビックリした。アカデミアの先生となるためには、専門分野の知識についてはすべて整理して頭に入れていなければならない。頭に入れるのが無理ならば、備忘録のようなものに書きとめ、常に座右におくべきだろう。

 

自分の専門分野の教科書ぐらい書ける能力が要求されるが、ある怪しい偉い先生が教科書を執筆できる教授が私も含め日本にどれだけいるだろう、と嘆いていた。この言葉をうかがった時にどう対応してよいのか困ったが。酸化スズゾルの帯電防止層の開発では、社会的に偉くなくてもきらりと光る多数のアカデミアの先生に出会えたことが、良い思い出となっている。日本のアカデミアはすそ野が広い。

 
(注)国際結晶学連合(IUCr)において1992年に、結晶(Crystal)を「本質的に離散的な回折を与える固体」として定義し直している。すなわちかなりその周期性が大きい固体だけを結晶と呼ぶのが学術的に正しいが、つい最近まで結晶についてその定義が混乱していたことがうかがわれる。当方が調査した1991年にはこの情報がまだ確定していない頃である。本欄はその時の体験を書いている点について注意して欲しい。新しい定義によればナノ結晶という言葉は学術的に怪しい言葉のように思われるが、それを重要な現象の如く説明される先生もいたので頭が混乱した。X線回折ピークにすべての反射面が観察されないようなナノオーダーの不完全な格子物質までもナノ結晶とよび結晶に分類する一部の先生の感覚を理解できない。
 

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