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2015.09/04 扇子と団扇、そのセンス

佐野氏がデザインした京都の老舗扇子店「京扇堂」のポスターが、秋田県横手市が開催した交流イベント団扇展のポスターと酷似していることがWEBで話題になっている。京都の老舗は依頼した覚えがなく、ただ名前を貸しただけだ、と語っている。産経新聞朝刊(9/4版)でも取り上げていた。
 
その他の佐野氏に関するWEB情報をしらべると、模倣の指摘が毎日何か一つ増えている状況である。今朝は母校であるT美大のポスターが盗作の疑いとして提案されていた。佐野氏は有名デザイナーだそうだが、これだけ模倣が出てくるとデザイナー業界の体質を疑いたくなる。なぜ、佐野氏が著名になりえたのか。
 
まじめに独創を追求しているデザイナーが評価されず、模倣で瞬間瞬間を評価され名声を得ることが可能な体質なのだろう。類似のことはサラリーマン社会でも起こりえる。プレゼンテーション能力の高さで出世できたケースも見てきたので、デザイン業界の体質をそれなりに想像できる。
 
組織で行う仕事を大義として、個人の業績など軽視しても許される、という意見もあるが、一番努力し成果をあげた人間がまったく評価されず、長期休んでいた人が突然出勤してきて組織リーダーという理由でプレゼンを行い評価され出世、という極端な例や高純度SiCの業績を審査した立場から、東京オリンピックのエンブレムで始まった昨今の状況を見ていると、複雑な気持ちになる。
 
社会的な地位と名誉を勝ち取ったデザイナーの知られたくない過去の仕事の裏側が次々と暴露され模倣のオンパレードという状況をこれから社会に出て行くデザイナーも見ているのである。これが今の社会だ、という考え方もあるかもしれないが、若い人の夢を壊すようなことになりはしないか。若い人材を激励するための顕彰の権威も地に落ちてしまった。
 
佐野氏の作品に模倣が多くそれでありながら業界の第一人者となった問題はすでに衆知の事実となったので、もうネットでの暴露合戦はやめるべきではないか。美しくないことが分かっていても、それゆえ美しくありたい、と努力するのも人間の本性である。問題提起は重要だが、それも度をこすと’グロ’になる。
 
よほどの天才ではない限り、全く何も無いところから人類に貢献できるすばらしい価値を生み出すことなどできない。模倣が創造のための一段階であり一手段として存在する限り、それを勘違いしたり悪用する人は出てくるのである。
 
創造は難解で高度な活動と思われているが、実は現代においてぱくりと創造は紙一重となる場合があり、それに対し忠告をするのはその道の先輩諸氏の重要な役割になっている。今回それが機能していなかったのである。機能していないばかりか、もっとひどい状態であったことは、説明インタビューも含め国民が皆知ることになった。
 
日本の現代社会には様々な問題がある。その一つとして受験の問題が毎年取り上げられるように、社会の人材評価システムは大きな問題である。今回はそれに様々な利権が絡んで醜くなっていた。
 
T美大は業界の実績もあり評価の高い大学だが、その評価がどのように作られたのかを垣間見る機会ともなった。ぱくりでもわからなければ評価される、OBがスクラムを組みそれを支えるーー張りぼて状態が丸見えになった。TVのワイドショーはさらにそれをわかりやすく説明する、醜さがお茶の間にもあふれる騒動である。
 
結局はドラッカーがいうように誠実真摯な人を選ぶのが経営者の役割、という考え方が大切で、社会のリーダーあるいはその業界のリーダーが誠実かつ真摯であるかどうかでその組織あるいは社会の風土が決まる。健全な社会や伸びる会社のリーダーには誠実真摯なリーダーが多い。インタビューを見ていてもそれがわかる。
 
オリジナルのポスターを当方も見たが、団扇を使ったデザインを美しいと思いぱくりたいという衝動に駆られたセンスをそれなりに能力が高いと思った。それゆえそれを真似たデザインを作るのは、それを自分のデザインとして発表しなければ、デザイナーとして練習のために許されることだ。
 
そこで団扇を扇子に置き換えただけのデザインを作成してみた(団扇よりも扇子にしたほうがセンスよく感じる)。それを自分のデザインとして発表したから悪いのである。そして、そのような人材を能力ある人として評価しているのが現在のデザイン業界である、というわかりやすい事件だ。
 
余談だが、ネットに掲載されたデザインを「お題」にして、当方ならば団扇を扇風機(ダイソンの扇風機ような革新型がよいかもしれない)に換え「COOL」と言う文字を爽やかな風のごとく揺らいでいる様子に「創造」し、同じ色調で描く(注)。模倣から創造するとはこのようなことだ。(しかし、創造とは笑点の大喜利のよな ーーー。)。
 
このようなデザインならばパクリと言われないだろう。しかしオリジナルのコンセプトの一部を模倣している点は佐野氏と同じである。但し模倣から創造した結果、「和」のイメージから「洋」で無機的な涼しさの表現という新しいコンセプトのデザインになっている。お見せできないのが残念!!
 
(注)羽の無いダイソンの扇風機の特徴である円形の空間部分から「COOL」という水色の文字がゆらぎ描かれているデザインを想像して欲しい。涼しくないですか?

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