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2017.05/20 科学が無くても技術は生まれる(3)

ようやく5月17日の補足である。否定証明の問題は、科学のプロセスを採用している技術開発で、そのゴール実現が難しいと思われるときに起きる。

 

だからといって、非科学的な根性論を取り入れて「完成するまで、頑張れ」とマネジメント(注1)すれば防げる、という訳でもない。

 

それを防ぐには、非科学的ではあるが、考えられる限り全ての条件について実験で確認するようなプロセスを採用すれば、何か技術を進歩させるネタが見つかるかもしれない。これを効率よく行うにはラテン方格を用いる。

 

酸化スズゾルの帯電防止層について特許の実施例を再現するにあたり、実施例に書かれていない条件をすべて書き出し、書き出された全ての条件の組み合わせについて処方を組み立て、それらの塗布条件で手当たり次第PETに手作業のワイヤーバー塗布を行い、出来立ての塗布膜の導電性を評価していった。

 

このようなプロセスは仮説に基づく科学的な実験のやり方とは異なり、効率の悪い非科学的方法として企業の研究所では忌み嫌われる。仮にラテン方格を使ったとしてもゴム会社の研究所では馬鹿にされている。

 

科学者と自称する人たちは、仮説に基づく実験こそ効率的、と信じている。しかし、技術開発でモノ造りのゴール実現が難しいテーマで、そのように進めると否定証明に走るリスクが高くなる(注2)。

 

仮説に基づく実験は重要である。しかし、それはモノができてから、「どうしてそれができたのか、もっと良い方法はないのか」と解析するときに行えばよい。モノが一度さえできれば、否定証明に走るリスクはほとんど無くなる。

 

だから酸化スズゾルの帯電防止層開発では、まず特許の実施例を再現してから、その再現された現象について解析を進めるといったプロセスで技術開発を行っている。この解析を進めるプロセスは100%科学的プロセスである。だから日本化学会で発表し講演賞を受賞できた。

 

(注1)高純度SiCの開発を担当していたときに、当事者である当方の気持ちなど無視して研究所内でこのような経営批判も聞かれたが、経営陣は決して根性論を持ち出さず、いつでもタオルを投げると優しく言ってくれていた。高純度SiCは非科学的プロセスで仕事を進めたので30年以上続く事業となったのである。また、その成果を解析する仕事(反応速度論による解析)で学位を取得している。技術を創り上げてから科学で技術を伝承しやすいようにまとめたのである。このスタイルは技術開発において否定証明を避ける良い方法である。技術開発は事業を生み出してこそ意味がある。科学の研究が目的ではない。

 

(注2)不適切な仮説を立てたために否定証明に走ってしまうのだが、仮説が適切かどうかについては、論理の視点で評価している。これを忘れている。自然現象がすべて論理的に説明できるためには、自然現象のすべてが科学的に解明され、その論理的つながりが明らかになっているときだけである。技術開発の過程で、二律背反の現象に時々遭遇するが、その中には、完璧に科学的に矛盾する現象もあれば、表層に現れた現象だけが科学的に矛盾する場合なども存在する。前者は回避手段はないが後者はすりあわせやKKDを駆使して解消する。商品開発では、ありがたいことにたいていは後者で対応可能な現象が多い。電気粘性流体でもすべての界面活性剤の機能をHLB値で説明できるという勘違いをしたために否定証明に走っている。アカデミアの先生が書かれた教科書の中には未だに間違った記述がなされている本も存在する。科学の研究は、自分で解きやすい問題を設定して進められている、というやや皮肉的な見方をしたほうがアイデアを出しやすい。小生のアイデア創出法の一つに「科学を疑ってみる」というのがある。

<企業における研究開発>

30数年間企業における研究開発の現場で様々な科学者と自称する人々の仕事の進め方を見てきたが、厳密な科学のプロセスを踏んでいる人はほとんどいなかった。分析や解析業務でもいい加減に進める人がいる。ただ報告書だけはさすがに論理的に書いている。だからねつ造のような報告書も多い。すなわち論理に厳密になるためにこじつけを行うのである。科学雑誌に投稿したらアウトになるような報告書をたくさん見てきた。そろそろ科学科学と叫ぶことをやめてもいいのではないかと思う。もう21世紀である。技術開発を真摯に目指すべきである。科学は自然を理解するための哲学であって、自然を理解し(これは小学校から学んでいる科学の方法で行う)そこに潜む人類に有用な機能をとりだすのは技術の方法で行うのが一番良い。

 

 

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