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2017.05/23 仮説で排除されたアイデア(2)

ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの工場試作は大成功だった。その結果始末書を書いた話はこの欄で紹介している。その時の始末書ではリベンジとしてホウ酸エステル変性フォームを提案している。

 

この企画アイデアは、ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの高い難燃性がどこから由来するのか解析して得られた科学の成果である。この解析結果で、リン酸エステル系難燃剤とホスファゼン系難燃剤の燃焼時の挙動に差異が見つかった。

 

これは、燃焼試験で得られたサンプルの燃焼面を化学分析して発見された。得られた事実とは、「リン酸エステル系難燃剤を用いたサンプルでは、燃焼後、リン酸ユニットがほとんどその燃焼面に観察されないのに、ホスファゼン系難燃剤を用いた系では、反応型であれ添加型であれリン酸ユニットが燃焼面に添加量に相当する量で残っている」である。

 

この事実は、さらに「リン酸エステル系難燃剤は、それが添加された高分子の燃焼時に熱分解してオルソリン酸となり揮発している可能性があるのではないか」、という仮説につながっている。この仮説を確認するために、燃焼時に揮発しているガスの分析を行った。

 

すると、リン酸エステル系難燃剤を用いた系の燃焼時の炎の中にはオルソリン酸が検出されたが、ホスファゼンの系ではそれがまったく検出されなかった、という結果が得られた。

 

詳細を省略するが、この結果からさらに、「燃焼時にリン酸ユニットを燃焼面に補足する機能を系に備えれば、安価なリン酸エステル系難燃剤を使用してもホスファゼン同様の高い難燃効果が得られる」という仮説を立て、リン酸エステル系難燃剤とホウ酸エステル系化合物との組み合わせシステム(燃焼時に無機高分子を生成するシステム)を考え実験を進めた。

 

ところが、この仮説で排除された考え方の一つに、ホスファゼンとリン酸エステル系難燃剤を単純に組み合わせて使用するというアイデアがある(詳細は当方のセミナーで説明しています)。退職後このアイデアをPC/ABSで試してみたら、ホスファゼンの少量添加とリン酸エステル系難燃剤の組み合わせで高い難燃効果が発現することが分かった。

 

30年以上前の気になっていたことが確認された瞬間、科学100%で技術開発を進めるリスクを改めて認識した。当時は仮説のすばらしさを褒められ、反省していないと指摘された始末書は人事部に提出されなかったそうだ。

 

そしてホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームという商品が完成し、高分子学会でも発表することになった。この過程で単純なアイデアが見落とされていることに誰も気がついていなかった。当方は開発途中で気がついたが、それを提案できる雰囲気ではなく(上司への忖度はサラリーマンの常である)、そのためチャンスがあったら確認しようと思い続け4年ほど前に実験を行った。

 

<仮説に基づく実験>

ある現象から見出した事実について、その真偽を確認するために仮説を設定する。事実がそのまま再現するかどうか、という実験は、再現実験であり、これは誰がやっても同じ実験になる(補足)が、仮説に基づく実験、すなわち仮説が「真」となるかどうか確認する実験は、それにより様々な実験が考えられる。この時に排除されるアイデアが生まれる。それを防ぐためには様々な可能性のある仮説を考えろ、と言われるが、本当にこれで防げるのか?ご興味のある方はお問い合わせいただくか、今後開催されるセミナーにご参加ください。

(補足)同じ実験を行っても再現されなかったのがSTAP細胞騒動である。実験にはノイズにより誤差が発生するので、同じ実験を行ったつもりでも、いつも同じ結果となるとは限らない。このときどう対応するのか、という問題もある。この対策が技術者と科学者で異なるアクションとなる。科学者ではモノづくりが出来ないといわれる所以である。実際にSTAP細胞騒動では特許を取り下げる愚行まで行っている。警鐘を鳴らす自殺者まで出たのに、国民の税金が無駄に使われた。STAP細胞騒動では、改めて科学とは何かを考える機会になった。

カテゴリー : 一般

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