高分子の難燃化技術の体系と最近の動向(難燃剤はじめ,技術,規制,評価試験法を体系的にわかりやすく解説)


<概要>

火災は、急激に進行する酸化反応である。非平衡下の科学が未だ研究段階であり、高分子材料の難燃化技術を科学の形式知だけで開発できない。形式知で解決できない問題は、経験知や暗黙知まで動員して解決することになる。すなわち、科学で解決できない高分子材料の難燃化技術では、高分子材料の用途に適合した難燃化規格を定めることにより、問題解決できるようにしている。


しかし、高分子材料の用途は様々であり、ひとたび火災が発生すれば用途ごとに燃焼のリスクだけでなく燃焼時の現象も様々となる。このことから難燃性の規格は、用途ごとに決める必要性があり、その結果測定法も様々となり、不定期に改定される規格も出てくる実情を納得できる。


高分子材料の成形体を購入する立場であれば、納入業者に規格に合格しているかどうか確認すればよい。ところが、多種多様の業界に製品を納入している成形体メーカーは大変である。それぞれの業界ごとに製品が規格に合格するのかどうか確認しなければいけない。ここで手を抜く担当者は、材料メーカーにそれを求める。その結果、高分子材料の業界では、コンパウンドメーカーが難燃化技術の開発をしなければいけなくなる。


コンパウンドを難燃化するときに、最もよい難燃化手法を探すことになるが、「最もよい方法」を客観的に評価するには、それが科学的に証明されなくてはいけない。


かつて元名古屋大学武田教授がこの問題にチャレンジされ、ハロゲン系化合物と三酸化アンチモンの併用が最も経済的で様々な高分子材料の難燃化に有効である、と「科学的に」結論を出されている。この結論が、形式知になりうるかどうかコメントを控えるが、技術の視点では、一つの結論と評価できる。ただ、唯一の形式知という評価としないのは、高分子材料の種類やその用途により、経済的な難燃化手法が異なる現実があるためである。


難燃性高分子を目指し、耐熱性高分子が1970年代によく研究され総説も発表された。耐熱性無機高分子であるポリホスファゼンはプロセスに依存しない難燃性高分子だが、フェノール樹脂のように合成条件で難燃性が大きく変化する耐熱性高分子もある。すなわち、耐熱性=難燃性と科学的に結論できない。


この耐熱性高分子の研究過程で熱分析手法が発達したが、科学的に怪しい論文も存在する。しかし、TGAで得られるデータが高分子の熱分解における反応速度の情報を示してくれるので、難燃性高分子材料を開発するときに技術として利用できる。すなわち、TGAをどのように活用するのかは、難燃性高分子材料の開発において一つのスキルである。


本セミナーでは、フェノール樹脂を事例に高分子の耐熱性と難燃性について概説する。また、熱分析手法を用いた開発事例を説明し、新たな難燃化技術を開発するヒントを示す。さらに、2022年に施行された法律により再生材の活用が本格化している実情を踏まえ、再生材の難燃化技術の事例も解説する。


高分子の難燃化技術は、トランスサイエンス(注)でありその問題解決にデータサイエンスは有効な手法の一つであり、Pythonによるディープラーニングによる回帰の結果についても言及する。

(注)科学で問うことができるが、科学で答えることのできない問題。


<習得できるスキル>

高分子の難燃化手法

高分子の難燃化技術と環境問題

データサイエンスの活用方法


<対象>

高分子材料開発に関わる技術者及び品質管理担当者

製品組み立てメーカーの技術者

日本の再生材事業者


<内容>

1.火災と高分子

 1.1.高分子の難燃化技術研究の歴史

 1.2.事例:フェノール樹脂の難燃性

 1.3.高分子の耐熱性と難燃性


2.難燃性の評価試験法

 2.1.高分子材料の用途と評価試験法

 2.2.極限酸素指数法

 2.3.UL94評価試験法

 2.4.その他の評価試験法


3.高分子の難燃化手法

 3.1.高分子の難燃化メカニズム

 3.2.ドリップ型難燃化手法

  3.2.1.再生PET樹脂射出成形体

 3.3.炭化促進型難燃化手法

  3.3.1.ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体

  3.3.2.ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体

 3.4.難燃化手法とプロセシング


4.難燃化技術とデータサイエンス

 4.1.データサイエンス概説

 4.2.タグチメソッド概説

 4.3.難燃性コンパウンドの工程問題解決事例


5.難燃化技術と環境問題

 5.1.環境問題の変遷概論(3Rから4Rへ)

 5.2.各種法規制と難燃化技術

 5.3.難燃性半導体ベルトのLCA


6.難燃化技術の特許出願動向


7.まとめ


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