2012.08/15 アイデアの出し方(事例1続き)
先日の電気粘性流体がゴムの添加物で增粘するという問題。
界面活性剤の検討を私が行う前に、開発プロジェクトでも界面活性剤について1年近く検討していました。なぜ私が1週間で見つけられた解決策をプロジェクトメンバーは見つけられなかったのか。私は逆向きの推論で得た対策が唯一の解決策と信じ、とにかくその解決策だけに集中して全ての材料を検討しました。しかし、プロジェクトメンバーは、界面活性剤は一つの解決策であり、他の解決策、例えば添加剤をすべて抜いたゴムを使用する、とか、ゴムの表面を電気粘性流体に直接接触しないように対策をとるとか、前向きの推論で考えられる全ての対策を検討していました。
研究開発で考えられる全ての条件を検討する、という姿勢は間違っていません。私はそのために思考実験を併用するようにしてきました。研究開発で考えられる全ての条件を検討する姿勢は大切ですが、もっと大切なことは迅速に問題の解決策を実現することです。
界面科学の研究者に叱られるかもしれませんが、界面活性剤の科学は未だに未完成です。モデル系の科学はかなりのところまでできておりますが、市販されている界面活性剤を用いたときに生じる現象を科学ですべて説明できません。このような分野を技術に用いるときには注意が必要です。哲学者イムレラカトシュの言葉ですが「現在の科学の論理でできるのは否定証明だけ」といわれているように、科学的に考えられる条件だけ検討しても正解が得られないことがあります。私は、実験を行うときに、界面活性剤として市販されている材料以外に、界面活性剤としても使えそうな材料も選択し、現象を観察しました。実験結果は、市販の界面活性剤の中には目標とする添加剤は無く、界面活性剤と似た構造の化合物が正解である、と出ました。正解が出てからモデル実験を行いましたところ、選ばれた化合物は立派な界面活性効果を示しました。
私は界面活性剤について、全ての可能性ある対策を検討するようにしましたが、開発プロジェクトのメンバーは、ゴムの添加剤の弊害を抑制する全ての対策を検討し、それぞれの対策については、全ての検討をしていませんでした。この違いがでる原因の一つに前向きの推論に頼る開発計画があります。対策のそれぞれについても全ての検討を行うべきだ、というのは結果論として言うことができますが、前向きの推論で行っているときに、それぞれの対策について、全ての可能性を残らず書き上げることは、不可能ではないですが、日常の業務の中ではかなりの困難を伴います。逆向きの推論は直接の解決策だけが得られますので、選択と集中を行うには大変便利な推論の方法です。「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」をご一読ください。
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