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2024.08/29 正しい理解とは

高分子の難燃化技術は、トランスサイエンスの分野である。そもそも火災という現象そのものがトランスサイエンスである。燃焼をいくら管理して実験を行っても、それが非平衡で酸化が進行しているならばトランスサイエンスの現象であることを悟るべきだ。


未だ非平衡の現象を科学で解析できていない。そこを理解できていると、無重力状態における燃焼現象が地上と異なることに驚く必要はない。地上と異なるのは「当たり前」である。


地上では、自己消火性となる酸素濃度で可燃性の高分子を無重力状態で燃焼させると燃え続けたのでびっくりした、ということがニュースで報じられた。当方ならば驚かない。


宇宙での火災、とりわけ宇宙船の中の火災は人命にかかわるので重要な研究とばかりに、科学の研究を始めた学者がいるそうだが、センスが悪い。


もっとも、世間は高分子の難燃化技術について未だ正しい理解をしている人が少ないので、いかがわしいサイエンスショーでも「科学」と持ち上げるように、哀れみではなく称賛として見られるのだろう。


科学者と称する人は、自分が正しいと思い込んでいる人が多いように思う。科学的手順で答えを出せばそれは皆が科学として認めてくれる。


仮に無駄な答えでも無知な人から見れば宝物のように見えるのだろう。無駄な知識になっているだけなら良いが、時々間違った問題で正しい答えを出している場合もあるので困る。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2024.07/31 フェノール樹脂の高次構造

一次構造があたかもフェノールとメチレンとの重合が進行して生成したような構造をしているフェノール樹脂だが、触媒存在下フェノールとホルマリンとの付加反応で生成したモノマーを含むオリゴマー前駆体のメチロール基が反応し、縮重合して合成される。


ここで、フェノールとホルマリンとの反応は、触媒と反応温度等で制御されるのだが、フェノールのホルマリン付加体が1種類ではなく、多種類の混合物となる。


酸触媒が用いられた場合は、ノボラック樹脂となり、レゾール樹脂はアルカリ触媒で合成されるが、それぞれのフェノール樹脂前駆体の構造を合成時の反応で1種類に制御することは困難である。


すなわち、ノボラック樹脂もレゾール樹脂も、その硬化後の高次構造の正確な情報を前駆体から得ることが難しく、その結果物性制御は、プロセスと原料管理で行うことになる。


難燃性について品質管理活動により、LOI値の偏差で1以内に追い込むことは可能だが、一般の樹脂は、0.5以内で管理できることを考慮するとこの偏差は大きいと言える。


問題は、フェノール樹脂前駆体のスペックをどうするかであるが、これはフェノール樹脂メーカーのノウハウに依存することになり、40年近く前はそのメーカー間の力量に大きな差があった。


あるメーカーAとゴム会社は契約を結び、高防火性天井材の開発を行ったのだが、M社の難燃剤が添加されていないフェノール樹脂発泡体の防火性能と同等の発泡体を得ることができなかった。


リバースエンジニアリングにより、前駆体の品質制御が重要ということを理解できたが、A社にはそのような制御技術が無く、それゆえ難燃剤を添加して防火性能を補わなければいけなかった。


M社のフェノール樹脂は、ソフトセグメントがほとんどないのだが、A社のレゾール樹脂を使用してフェノール樹脂発泡体を合成するとソフトセグメントが5%以上必ず生成した。


このソフトセグメントの量が防火性能に影響していると推定されたのだが、レゾール樹脂を硬化させる反応をいろいろ検討してもM社のように5%以下とすることができなかった。


すなわち、レゾール樹脂合成条件まで踏み込んで研究しなければ高防火性天井材開発を難燃剤無添加で開発することは難しかった。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2024.03/22 高分子のトラブルを解析したい方へ

当方のノウハウでさらに社会に貢献しようと形式知の部分について学会活動も始めました。経験知につきましては、トラブル解析の実務について概略をまとめてみましたのでご活用ください。今後高分子材料の寿命耐久性評価法や破壊に対する考え方についてもまとめる予定でいます。また、セミナーも皆さんのリクエストにより行ってゆきますのでご相談ください。


2024年3月現在、Amazonの電子書籍Kindle限定で販売中です。

価格は2,000円となっております。
下記は書籍目次と索引のサンプルになります。

書籍タイトル及び最終ページをクリックすることで、販売先サイトへと転送されます。



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カテゴリー : 一般 電子出版 電気/電子材料 高分子

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2024.03/09 ゴム・樹脂のトラブル解析

ゴムや樹脂のトラブル解析に、熱分析技術は不可欠である。TGAやDSC、TMAと並んだ文字を見て、すぐに測定法やデータが思い浮かぶようになりたい。


特に実務でこれらの材料の品質管理をされている方は、自分で測定ができるようにしておくとよい。使用頻度としてTMAは他の熱分析法よりも低くなるが、持っているといざという時に役立つ。


注意点として、JISやISOにはDSCを20℃/minで測定するように書いてあるが、TGAを同じ速度で計測すると、一部の情報を見ることができなくなる。TGAは10℃/min以下で測定したい。


困るのは昇温速度が異なると、変化温度の位置が変わるところである。ゆえに、熱分析はすべて10℃/minで計測し比較するようにしたい。


ゴムや樹脂のトラブル解析の大半は熱分析でその原因が見えてくるので、熱分析法を身に着けていると、対策を早く取れる。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2024.01/30 燃料ポンプの故障

デンソーなどによると、燃料を吸い上げるための「インペラ」(樹脂製羽根車)という部品を作る金型を変更したところ、樹脂の密度が低いものが生産されてしまったという。広報担当者は「製造後、車両に搭載するまでの環境なども複雑に絡んでいるとみており、複数の要因についてさらに調査している」と話した。  これまで7回のリコールを届け出たホンダの分析によると、樹脂密度が低いインペラが長期間倉庫に置かれるなどして、車両に搭載されるまでの間に表面が乾いてしまい、樹脂が収縮することで細かな亀裂が入ってしまうものがあるという。  (1月27日版朝日新聞デジタル記事より抜粋)


ホンダ車のリコールに関する記事で、1月27日に原因が細かく記載された記事を見つけた。おそらく樹脂はPPSだろうと推測され、燃料ポンプのインペラーについては、東レが特許を取得していた(10年間特許年金が支払われたが年金不払いで権利消滅)のを見つけた。


朝日新聞デジタルとこの東レ特許を読むと、トラブルの原因が見えてくる。2月度(昨日の本欄参照)に高分子のトラブルに関するセミナーを開催予定ですのでご参加ください。少し解説いたします。


また、本セミナーにつきましては、3月にゴムタイムズ社で、4月に技術情報協会でも開催されます。弊社で開催されますセミナーは若干お得な価格設定にしておりますので是非ご利用ください。  

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.12/14 高分子材料の破壊と劣化寿命

表題に関して日刊工業新聞主催のWEBセミナーが1月に開催されます。弊社にお申込みいただければ割引サービスいたしますのでお問い合わせください。

https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/6917


高分子材料の破壊につきましては、セラミックスや金属と異なりトランスサイエンスであり、他の材料では行われている非破壊検査も困難な状況です。


本セミナーでは事例により、高分子の破壊と耐久劣化の問題について、現象の解説だけでなく品質管理の手法や解析方法を解説いたします。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.10/19 Na二次電池

EV出遅れ日本が叫ばれ続けているが、もうすぐ4年ぶりのモーターショーである。今年から

Japan Mobility Show 2023 というそうだ。



EV用電池としてはLi二次電池が主流だが、水素燃料電池やNa二次電池も可能性がある。後者について日本メーカーはあまり関心が無いようだが、弊社は10年ほど前から細々と研究を続けている。


Li二次電池について1991年にソニーが商品化した話が有名だが、1986年にカナダの会社が、1987年にはブリヂストンがLi二次電池を商品化して販売している。そしてブリヂストンはその成果で日本化学会技術賞を受賞している。


電池分野について気になるのは、多数派の見解に流される傾向が強く、商品化の歴史についても誤った記事が多い点である。Naイオン二次電池についても当方が数社訪問し、技術者と懇談しても起電力差から将来性のない技術として頭から否定されてきた。


しかし、2015年にフランスで汎用Naイオン二次電池が発売され、あっという間にその生産の中心は中国となっている。コロナ禍前に驚いた状況となっていたが、日本ではそれでも関心を示さない。


それどころか今は全固体電池の実用化が本命とばかりに全固体電池開発競争となっている。確かにこのような先端技術は、とにかく先端を走り切ることが一つの勝利の方法だが、もう一つ先端ではないが長所のある技術について使いこなす開発も勝利の方法である。


LiとNaの標準電極電位は、約0.3VLiの方が高く、その結果Na二次電池の起電力等の性能はLi二次電池を越えることはできない。ゆえに電池開発者はこれを根拠にNa二次電池の未来を閉ざした考え方をする傾向にある。


しかし、Na二次電池がLi二次電池よりも満充電の時間が半減することが最近分かってきた。また、LiよりNaは地球上に豊富に存在しコストも安い。そのようになってくると、Na二次電池の使いこなし技術の可能性に対する期待が大きくなる。


詳しくは弊社に問い合わせていただきたいが、Na二次電池とLi二次電池とを組み合わせて蓄電デバイスを組み立てると、充電時間の短い蓄電デバイスを組み立てることが可能となる。


科学の視点では、標準電極電位がLiより0.3V低いNaで二次電池を組み上げてもLi二次電池を凌ぐことができないので面白くないかもしれないが、技術の視点で見るとNa二次電池の未来はまだ明るい。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2023.09/22 新規ポリマーアロイ(6)

PPSへ可塑剤や他のポリマーを分散すると、その添加量に応じてTgが変化する。例えば6ナイロンを添加すると、6ナイロンのTgは上がり、PPSのTgは下がる。


すなわち、ポリマーの場合には2種類のTgが観測され、カオス混合により両者は相溶して一つのTgとなるのだが、PPSのTgは相溶により10℃前後下がる。


相溶は、非晶質相だけで起きるので、Tgが下がる欠点はあるが、PPSの靭性改善には良い方法であり、例えばPPSフィルムの場合に6ナイロンがただ添加されただけの場合のMITは3000前後であるが、これが6ナイロンの相溶したフィルムでは20000以上に改善される。


脆いと言われるPPSだが、ここまでMITが改善されると高速プリンターの動的部品である中間転写ベルトへ利用できるようになる。


PPSの改善効果を狙って退職後ナノポリスで研究をしているのだが、このTgを下げないで物性改善できる添加剤を10年ほど前に開発している。


低分子の添加では、低分子のTgは観察されないので、低分子の添加によりPPSのTgが下がる現象だけが観察される。しかし、10年前に開発されたPH01の添加では、なんとPH01の添加量を増やしてもPPSのTgは変化しない。


すなわちPPSの耐熱性を阻害しないで、その靭性を改善できる添加剤である。PH01は低分子ではないが、このような物性を分子設計されたオリゴマーである。詳細は弊社へ問い合わせていただきたいが、興味深いのは力学物性以外の改善効果もナノポリスから最近報告された。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/20 新規ポリマーアロイ(5)

昨日微妙なニュースが飛び込んできた。当方はコロナ禍前の2019年までナノポリスへ出かけては、学生やローカルメーカーの指導をしてきたが、その中に1社PPSコンパウンドを事業としている会社があった。


そこの総経理から中国EVメーカーが使用するPPSコンパウンドについて、全EVメーカーへのPPSコンパウンド納入に成功したという連絡が入った。すなわち中国のEVメーカーで生産される製品に使用されるPPS部品は、当方が指導した会社のコンパウンドになったという。


理由は、世界のどのメーカーよりも高品質だからだそうだ。タグチメソッドを導入し開発したのだからロバストが高いのは当然だが、他社では実現できない品質が達成されている、と自慢していた。


特にMAO処理では、高い品質効果が確認されているという。これは今連載で説明しているが、カオス混合の寄与が高いと思っている。


そのほかに、データサイエンスで解析して得たある知見をコンパウンディングに用いているが、これは科学では説明できない現象(注)を活用している。


科学を重視というよりも科学パラノイアに近い技術者には理解しがたい技術でコンパウンドを生産しているので、他社ではリバースエンジニアリングが難しい。


いろいろ感謝された後、10月に来てほしいと言われたが、現在の日中関係を思い、回答を差し控えた。ナノポリスで指導していた技術については、当方の著書にすべて書いてあり、日本で公開済みであるが、著書の売り上げは芳しくない。弊社へご注文いただければ、送料サービスでお送りいたします。


また、タグチメソッドはじめデータサイエンスについては、セミナー活動を通じ、当方のノウハウを公開している。中国や台湾でもセミナーをたまに実施しているが、集客は日本と比較にならないほど盛況で悩ましい問題だと思っている。


日本でも当方のセミナーに多くの人に参加していただきたいと願っている。今週末の難燃化技術セミナーでも50年近くのノウハウとこの10年の成果やデータサイエンスを用いた開発事例を公開する。また、ディープラーニングについても入門程度の解説を行い、難燃化技術とマテリアルズインフォマティクスについて理解できるよう準備してる。


(注)ほとんどの混練技術に関する形式知の説明では、分配混合と分散混合の概念が用いられている。この概念では理解できない現象が混練で起きている。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/19 新規ポリマーアロイ(4)

PPSは結晶化しやすい樹脂で、力学物性に影響が出るほど球晶が大きくなる。例えば力学物性測定用に射出成形されたPPSを200℃で1時間ほど放置すると、引張強度は低下する。


これをPPSの劣化と勘違いしてはいけない。球晶が成長したために靭性が低下し、強度が低下したのである。再度粉砕して射出成形すれば強度は復活するのでPPSの分子が断裂したわけではない。


PH01という新たなPPS添加剤を開発した。この添加剤は、カオス混合によりPPSに相溶するが、二軸混練機だけで混練したのでは相溶しない。


PH01を7%添加したPPSをカオス混合しコンパウンドAを製造した。このAを射出成形し、200℃1時間放置しても強度低下しない。6時間放置しても強度はそのままである。


ところが、PH01を同様の添加率で通常の二軸混練機だけで製造したコンパウンドBでは、200℃1時間の放置で強度低下する射出成型体しかできない。


AとBを化学分析しただけでは、その差異は不明である。すなわちリバースエンジニアリングで解明できない射出成形体を製造できる技術ができたのである。


これは中国ナノポリスで行った研究の成果で国内の某社で実用化されている。特許も出願されているので興味のあるかたは確認していただきたい。もちろん弊社へ問い合わせていただいても構わない。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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