富士フィルムが、そのコーティング技術を応用して化粧品業界に参入したことは有名な話であるが、松田聖子と小泉今日子を起用したCMにはびっくりした。
ターゲットが若い人ではなかったからである。最近は男性用化粧品なども登場しており、化粧品業界は、今後も大きく成長する分野と思われるが、先日某国立大学教授の接待問題がワイドショーで紹介されたので、化粧品と高分子について調べてみた。
驚いたのは、まさにコーティング技術の応用分野として高分子技術者が十分に打ち込める面白いネタがたくさんあるのだ。PETやTAC表面のような単純な問題ではなく、皮膚表面には常在菌が大量にいて、善玉菌をうまく生かしながらコーティングしなければいけないのである。
このような分野では、一般の界面活性剤では、常在菌を殺してしまう可能性があるので、高分子活性剤の使いこなしが重要になってくる。
また、30年ほど前にゾルをミセルにしたラテックス重合に成功し、その技術を応用したゼラチン開発で写真学会から賞を頂いているが、こうした小技が必要だ。
善玉菌は殺したり、あるいはその活動を活発にしたりしてはいけないらしく、高分子活性剤や無機微粒子を活性剤として活用する技術が菌に優しい。
コロナが大流行しているときに、キスの問題(注)を論じた記事を読んだが、こうしたカップル間の問題回避にも高分子によるコーティング膜は重要になってくる。
某国立大学の先生の御乱行がきっかけでマイクロバイオームなる面白い話題を見つけた。男性化粧品の次は、カップルスキンケアが話題になるのかもしれない。
(注)10秒間のキスで8000万個の細菌が交換されるそうだ。どのように調査したのかは記事にかかれていなかったのでウソ八百かもしれない。1秒間にすれば800万個だが—
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表題について書こうとすると、FD事件を思い出してしまう。同僚にFDを壊されたり、ナイフが机上に置かれていたり、そして隠蔽化されたこの事件で同僚3人が転職している。
さて、FDを壊した犯人は、HLBを科学の形式知の範囲でとらえ、分子構造を同定した界面活性剤を用いて、電気粘性流体の耐久性問題を解こうとして、解けず、否定証明を行って大論文を書いている。
そして、科学で頭がいっぱいの本部長はそれを世界的研究と持ち上げて、当方に加硫剤も添加剤も入っていない加硫ゴムを開発するように命じてきた。当方はそれに対して、一晩で電気粘性流体の耐久性問題を解決できる界面活性剤を見出している。
データサイエンスの成果であるが、当時界面活性剤を見出すために8ビットコンピューターMZ80Kを用いている。10時間以上耐久する電気粘性流体は無かったので、一晩促進試験を行えば十分だった。
さて、すべてのHLBで検討しても耐久性問題を解けない、とした、研究論文は間違っていたのか。否定証明だったので、科学的には、正しい研究論文だったが、技術の観点ではゴミ論文だった。
40年近く前の実話だが、界面活性剤の議論で使われるHLBは、科学的パラメーターと呼ぶには怪しいパラメーターである。FDを壊した犯人が、分子構造既知の界面活性剤だけで検討を進めた理由を理解できるが、技術開発ではモノを開発しなければいけないことを知らないと、このような間違いを犯す。
高分子界面が関わる問題では、χパラメーターが使用されるが、この実体は自由エネルギーである。ただし、パラメーターを決める方法が問題となる。
SPは、エンタルピーから求められ、低分子から高分子までの混合を議論するときに使われる。最近はHSPがよく適合すると言われており、ハンセン球を用いた溶解性の議論が行われる。また、求めにくいχについて、SPから求める式が提案されたりしている。
HLBもSPやχも、界面が関わる技術の問題では、よく登場するパラメーターであるが、その意味は異なっている。また、いずれも形式知となっているが、怪しいパラメーターであることを知っておいた方が良い。
HLBについては、同僚3人が転職するような事件となった電気粘性流体の耐久性問題が事例としてある。χが0でなくても高分子が相溶した事例は、中間転写ベルトの実用化で実績がある。SPから発想したが、SPでは説明がつかない添加剤PH01の発明がある。
科学で何でも説明できると思っていると、せっかくの良いアイデアをつぶすことになる。この3つのパラメーターが関わるそれぞれの技術開発事例は、トランスサイエンスの問題だった。
(注)本日の話の身近な応用例は、ゼラチンを水に溶かすときに、50-60℃程度のぬるま湯に少し浸漬して膨潤させてから溶解するノウハウがある。このノウハウを用いるとゼラチンを分散した水溶液を容易に作ることができる。ゼラチンは親水性高分子として知られているが、コンフォメーションにより、疎水性の性質を示す。このことを理解できると高分子のSPやχが分子構造やコンフォメーションにより変化することがイメージでき、カオス混合でPPSと6ナイロンを相溶させてからスピノーダル分解が起きるときにカーボンの凝集構造が形成されてパーコレーションを制御できるアイデアが浮かぶ。これはレーザープリンターの部品として実用化されている技術である。
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耐熱性高分子の研究は1970年代まで高分子化学の中心的テーマだった。しかし、それが空気中で燃焼するという問題を克服できず、高分子の難燃化研究が生まれている。
1980年代にはリン酸エステル系難燃剤が多数販売され、1980年中ごろに臭素系難燃剤が発表されるや否や、臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの組み合わせ難燃剤へ研究の関心が移ってゆき、一大市場を形成した。
しかし、環境問題の関心が高まるにつれ、ノンハロゲン系難燃剤へ、と市場は変化した。さて、高分子は空気中で燃えるので、高分子の難燃化技術は、電子部品で重要な技術であるが、科学の体系が存在していないことを御存じだろうか。
弊社は技術の体系を作り、それをセミナーで解説しているが、高分子の難燃化技術や耐熱性高分子はトランスサイエンスの問題である。なぜなら、有機高分子はセラミックスと異なり、高温度になれば必ず酸化され燃焼するのである。
耐熱性高分子も同様であり、不燃性の耐熱性高分子は存在しない。フェノール樹脂だって燃えるのである。ゆえに用途で決まる仕様に準じて高分子材料を設計することになるのだが、これが科学の形式知で簡単にできる世界ではない。
コストの問題まで考慮すると大変難しい問題となる。コツは仕様を明確にして妥協すべきところは妥協することになる。
今PPSの市場が拡大しているが、この材料の問題はTgが90℃前後と低い問題である。ゆえにLCPやPEEKといった材料がPPSの使えない領域で使用されている。
しかし、PPSのTgが低い問題は、アイデア次第で問題解決できるが、科学的では無いアイデアとなる。ここに書くと、なーんだあ、と言われそうなので書かないが、十分に100℃以上の耐熱性が必要な領域でPPSを使用することが可能である。
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本日は4月1日なので信じてもらえないかもしれないが、頭も使わず簡単に新規ポリマーアロイを開発する手法がある。ただ組み合わせて混練し物性を測るだけである。
そのような手法で、PETボトルのリサイクル材が70%以上含まれている新規のポリマーアロイを20年近く前に開発した。驚くべきことにそこには紫外線防止剤はじめ劣化防止に必要な添加剤を一切添加していない。
それでも窓際に20年近く放置していても劣化しないのだ。開発した時の靭性を保持しており、簡単に割れない。PSに似た物性だが、はるかにPSよりも高靭性である。
レーザープリンターの内装品に応用されたのだが、現在はディスコンになり使われていない。もったいないことに特許の年金も支払われていないので、どこでも自由に技術を使用できる。
この樹脂には驚くべき物性はほかにもたくさんあり、例えば難燃剤を添加していなくてもUL94-V2に合格する。もっともこの認可が得られなければ、レーザープリンターの内装材に使用できないのだが、難燃剤を使用しないので安い!
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小学生の頃に象が乗っても壊れないアーム筆入れ、という商品がヒットしている。TVで実際に象に踏ませて壊れないところをPRしていた。
映像で見る限り、象の全体重が筆入れにかかっていたわけではないが、それなりのインパクトがあった。同様に今でも記憶に残っているナイロンザイルの事故は、高分子の破壊について講演するときに常に思い出す。
奥穂高の事故を扱った井上靖の「氷壁」は、当方が3-4歳頃の新聞小説で、その後映画化やTVドラマ化されている。だから、実際の事故について記憶が残っていたわけではない。
小学校時代に見たTVの記憶である。最初のTVドラマではフジTVの昼メロ(注)として放映されており、記憶が正しければ、人妻と密通しロッククライミングで滑落する男性を渋い二枚目の山崎努が演じていた。
この思い出は、その後必殺仕事人で念仏の鉄の演技を見ていて興ざめした体験として残っている。小学校高学年の午前中の授業だけの時に帰宅すると、この昼メロを見ることができ、ナイロンザイルの事故として一生懸命見ていた。
氷壁は長編小説であり、読むのに大変だったが、この昼メロを見ていたおかげで、中学の時に一気読みしている。このような経験から、古い事件でありながら、小説と実際の事件との区別がつかず、鈴鹿高専の実験を見ていたような錯覚まですることがある。
また、念仏の鉄と滑落死した人物が一緒なのは、必殺仕事人を見ているときに邪魔な記憶だった。特に鉄が女郎と遊んでいるシーンを見ると人妻との密通を思い出し、喜劇に映ったのである。
ところで、ナイロンザイル事件はTVドラマのような浮ついたものではなく、長い間裁判が行われ切れるはずの無いナイロンザイル事件として当方が成人するまで新聞でたびたびニュースとして取り上げられている。
ちなみにこのナイロンザイルはT社製の糸をTS社がロープ化したもので、企業と被害者がそれぞれ公開実験を行い戦っている。このように泥沼化したのは、高分子材料の破壊機構について科学的に不明点が多かったからである。
科学的に不明だから企業に過失はない、というのは法的に正しいのかもしれないが、思春期の当方の目には良い印象が残っていない。T社もTS社も日本を代表する立派な企業であり、例えばPPS/6ナイロンの技術は、脆いPPSを高速で動作する複写機部品として使えるようにした素晴らしい技術である。
しかし、パーコレーションの問題を解決できなかったのは残念で、技術サービスからド素人と評価された当方が3カ月でコンパウンド工場を子会社の敷地に建設しなければいけない事態になっている。
この時、脳裏にあったのは、辛抱強くナイロンザイルの問題を訴えた被害者の兄の姿である。PPSの力学特性を改善する技術には成功したが、半導体としての電気特性を安定化させる技術に失敗している点に気づいていない問題を深く議論することをすぐに諦めている。半年後には製品に搭載しなければいけない部品の責任者だったからである。
二律背反の技術は、科学では解決しにくい場合が多い。そのとき科学で分かっていないからモノはできないでは困るのだ。今月19日にこの事例とともに問題解決の方法をゴム協会シンポジウムで2時間講演する。
何をこの時考えていたかについても話す予定でいるので聞きに来て欲しい。セラミックスが専門の人間がリスキリングできたDXの効果についてご理解いただけるのではないか。
ちなみに、材料の破壊力学が金属やセラミックスに適用され、一応の完成を見たのは、1980年代のセラミックスフィーバーの時であり、高分子の破壊についてはまだ細々と研究が続けられている。
しかし、金属やセラミックスで線形破壊力学の考え方の正しさが確認され、K1cというパラメーターは弾性率同様に物質の固有の値という認識ができつつある。
当方が、材料の破壊に関心があるのは、プラモデルが登場した時に今は無くなった今井模型の社長からケミカルアタックの説明と壊れた部品の代わりを送られた思い出からである。
ナイロンザイル事件について新聞のニュースで知ったのは小学校高学年になってからであるが、昼メロ以外に氷壁のドラマをその後数回見ることになり、高校生の頃にナイロンザイル事故が同日に2件起きたセンセーショナルなニュースはワイドショーでも扱われ今も覚えている。
そして成人した時に法制化されたニュースを見た記憶が残ってる。同様にTVドラマを通じて印象に残っているのは、「わたスキ」が放映された時に頻発したABS製スキー靴が壊れる事故である。
高分子材料の破壊について、学術的な思い出よりもこのようなTVドラマとの関連で関心が強く、今も興味深くその研究成果について勉強している。
(注)この昼メロを今から思い出しても少し憤りを感じる。いくらナイロンザイルの結晶化による靭性低下が原因という機構が分かっていないから、といっても、滑落原因を人妻との密通が原因であるかのような展開だったからである。一方で鈴鹿高専の先生が辛抱強く研究成果を発表されて、それが新聞で取り上げられたりしていた。すなわち高分子の破壊がこれほど社会問題化された例を当方は知らない。「私をスキーに連れてって」では、スキー靴の問題を扱わず、モータリゼーションの世相を描くのに一生懸命だった。デートカーという言葉も生まれ、その後プレリュードが大ヒットしている。プレリュードは、バブル崩壊後売れなくなってカタログから消えたが、最近ホンダはプレリュードを再登場させると発表している。初任給バブルの時代にヒットするか?
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子供の頃、プラモデルでスーパーカーを作って走らせていたら数日で壊れた。ギアボックスが外れたのである。よく見るとギアボックスの取り付けてあったところにヒビも入っていた。
ケミカルアタックである。この話は以前書いたが、高分子と油の組み合わせには注意が必要である。また、最近のTVの画面の最表面は樹脂フィルムであることも多いので、洗剤のついた布で拭かない方が良い。
TV画面は、取り扱い説明書をよく読んで拭き掃除を行うこと。昔はブラウン管だったので心配なかったが、今のTVの画面掃除は取説に従って行う必要がある。
20世紀末から、身の回り製品の外装が高分子ばかりになった。突板張りもフィルムに木目を印刷した高分子である。我が家の食卓テーブルは100%木製で一部セラミックスが張り付けてあるが、最近ニトリで似たようなデザインのテーブルを見つけたが、表面は樹脂だった。
恐らく耐久試験が行われているので、食用油がこぼれても問題が起きないようになっているだろうと思われるが、勇気のある設計だと思う。
ガソリンのポンプにPPSを用いてリコールを行った自動車会社が最近あった。ガソリンが直接触れる部品に高分子を用いる時には、十分な品質管理が前提となる。
高分子と油の組み合わせにおいて、SPが離れておれば大丈夫とか、ケミカルアタックはSPに気を付けておれば大丈夫とか言う記述を見たことがあるが、これは誤解を招く。自動車会社のリコール問題も、油に溶けにくいPPSという性質のため油断してリコールとなっている。
ケミカルアタックではSPだけで判断してはいけないのだ。このあたりは、あまり知られていないので、不安な方はお問い合わせください。
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高分子成形体の密度は、重要なパラメーターである。しかし、これに無頓着な技術者は多い。技術者だけでなく、一般消費者もこれに関心を持ってほしい。例えば100円ショップで同一形状のプラスチックケースを複数購入した時に重量を計測すると、それがばらついていることに気がつく。
PS製品であれば、密度を計測し、1年後その密度を再計測すると変化していることに驚くことがある。中には変形する製品もある。100円ショップの製品だから、と思ってはいけない。
高級品でも同様である。二**のF100というフィルムカメラの裏蓋が破損した時に、破片と本体の密度をアルキメデス法で計測したら異なっていた。すなわち、成形体部品に不均一な密度分布があったことになる。
これが経時で生じたのか、最初から密度分布があったのかは不明だが、最初から密度分布があったのならば、二**は重要部品の品質管理をやっていなかったことになる。
セラミックスでも金属でもその成形体の密度を計測すると理論密度となっていないが、高分子ほど経時での変化は大きくない。セラミックスなど10年や20年では変化しない。
この高分子が時間経過とともに密度変化している問題は、製品の品質管理で重要になる時がある。もし気になった技術者がいたら弊社へ問い合わせていただきたい。
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ゴムを混練りした経験者と樹脂を混練した経験者とでは、プロセシングに関する議論がかみ合わないことがある。樹脂の混練経験者は、せいぜい二軸混練機のL/Dを気にするぐらいである。
スクリューセグメントについて知識を持っていることは常識であり、その前にL/Dが最低どのくらいの値を基準にして議論しようとしているのか気にしている。
ゴムの混練り経験者でもニーダー1台で用を足していた技術者とロール混練りを経験していた技術者とでも議論がかみ合わない場合があるが、ニーダーしか経験の無い技術者は、ロール混練り経験者に敬意を表すのでやがて議論は結論へと向かう。
しかし、二軸混練機で成果を出してきた技術者は、どこかプライドが高い。お釈迦様の掌の上で飛び回っていただけであることに気がついていない。
PPS/6ナイロン/カーボンの配合を議論していた時に素人は黙っとれと言われた。当方は、ニーダーやロールでもこの配合を混練りしてみたが、一流メーカーのコンパウンドと異なる性能のコンパウンドが得られたので、混練りプロセスの検討をお願いしたのである。
結局議論にならず仕方が無いので3か月でカオス混合プラントを中古の二軸混練機を購入して立ち上げ、一流メーカーのコンパウンドよりも高性能なコンパウンドを生産し押出成形に使用している。
混練りの世界は科学の形式知の広がりよりも広いのである。何故高性能ゴムが今でもバンバリーとロールで混練されなければいけないのか、わかっている技術者は少ないように思う。問題意識を持たれた方はお問い合わせください。
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表題のテーマは1990年前後から無機高分子研究会で議論されるようになった。1980年前後には無機材料関係の研究者の間で貝やサンゴの組織構造が話題になっていた。
無機材料の研究では結晶が主人公となるが、高分子材料では結晶構造が物性を制御している例だけではないので、古くから高分子については高次構造という言葉でひとくくりになっていた。せいぜいDNAのらせん構造が二次構造と呼ばれていたぐらいである。
また、その結晶構造の研究が進んだ結果、高分子で現れる結晶構造はラメラの集合体である球晶であり、無機材料のように多種の結晶構造が出現するわけではない。また結晶成長の速度論はアブラミ一決である。
ところで物性と構造との関係において、無機材料では、強相関材料が古くから概念としてあったが、高分子では2000年前後に強相関ソフトマテリアルという言葉がようやく使われるようになった。
材料の物性や機能が、構造により制御されていることが明確になれば、その構造設計を行うことで自由に材料の機能や物性を制御できることになる。
無機材料では、結晶構造の制御で機能性材料を創製する技術が進歩したが、高分子材料では、どちらかと言えば氷壁という小説がベストセラーとなってナイロンの結晶構造が社会から注目されたり、私がスキーに連れて行ってもらったら骨折しちゃった(注)という不幸な出来事から組織構造の科学が進歩したように思える。
そして高分子分野では1990年前後から積極的に自己組織化を研究するようになったのだが、これが面白いのは、自己組織化でどのような機能が現れるのか、研究者が明確にそれを保証せず、ただ組織を組み立てることに夢中になっている。
だから30年経っても高分子関係における自己組織化という研究テーマは、セラミックスフィーバーのようなあるいはナノテクブームのような材料のイノベーションの主役となっていない。
どちらかと言えばナノテクブームにおいて便乗商法的な研究が多い。今月のゴム協会におけるシンポジウムではここまでの厳しい表現をせず、考え方のヒントを提案する。
(注)「私スキ」はバブル期1980年代末のヒット映画だが、その直前には、ABS製のスキー靴が簡単に壊れ骨折する事故が多発している。しかし、原田知世の方が有名となったが、ABSスキー靴の問題は忘れ去られた。ABSの改良がなされ、安全でファッション性のあるスキー靴となり、映画がヒットしたのである。
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コンパウンディングの難しさについて、品質問題を経験しないと気づかないのではないか。少なくとも20年前はそのようだったが、この数年間に受けた幾つか質問の中にもコンパウンディング技術を軽く見ていると思われる質問がある。
どの技術も難しさを秘めているが、コンパウンディングプロセスでは100点満点の状態について見えにくいところが他の技術と異なる。すなわち、成形プロセスでコンパウンドの出来具合を評価して初めてコンパウンドの完成度が分かる、という難しさである。
動的粘弾性の測定でもわかる、という人がいるが、それは成形体との相関関係が分かってはじめて明らかになる。
カオス混合に成功した時に悩んだのは、その混練効果をコンパウンド段階で示す評価方法についてだった。レオロジーの知識から剪断速度依存性は一つの尺度とわかっていたのだが、カオス混合を行ったコンパウンドはそれが小さくなっていた。
しかし、コンパウンドの用途が電子分野であった。押出成形で半導体無端ベルトを製造した時に、その抵抗ばらつきが小さくなるようなコンパウンドとはどのような評価を行えばよいのか。
一つはコンパウンドのインピーダンス測定があったが、これはカーボンの添加量のばらつきを管理するのには役立った。しかし、この値だけでベルトの抵抗の偏差の大小をコンパウンド段階で品質保証できなかった。
いろいろ試行錯誤を繰り返し、ある条件で動的粘弾性を測定すると、得られたパラメーターが、電気特性の偏差と相関することを発見した。すなわち、力学特性と電気特性に相関がみられるという驚くべき結果だった。
PPS中間転写ベルトのコンパウンド工場を3か月で立ち上げているが、一番悩んだのが、このようなコンパウンドの品質管理方法だった。この発見で成形歩留まりが100%となるコンパウンド生産が可能となった。クレーム0のコンパウンド技術を開発したのである。
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