2012.08/20 アイデアの出し方(事例2)
30年ほど前に半導体用高純度炭化珪素という素材を開発し、高純度炭化珪素の事業を立ち上げた時の経験談です。この材料は、パワートランジスタ用のSiCウェハーや、SiCヒーター、その他半導体用冶工具に使われており、基礎研究の反応速度論は私の学位論文になっていますので国会図書館で閲覧可能と思います。技術の詳細は公開資料を見て頂くと本事例の意義等ご理解頂けると思いますが、30年前には誰も実験をしようとしなかったアイデアをどのようにひねり出したかという体験談です。今では大したアイデアではありませんが---
炭化珪素を合成するためには、炭素源となる材料と珪素源となる材料を均一に混合し、1500℃以上の高温度で反応させる必要があります。当時炭化珪素を高純度化する方法の開発が盛んに行われており、「炭素源としてフェノール樹脂を、珪素源として高純度シリカ」を用いる組み合わせ、あるいは「高純度炭素粉と珪素源としてポリエチルシリケート」を用いる組み合わせも検討されていました。しかし、「炭素源としてフェノール樹脂を、珪素源としてポリエチルシリケート」を用いる組み合わせに関しては、特許も含めて全く技術情報が存在していませんでした。高分子の研究者ならばすぐにその理由がわかると思いますが、「この組み合わせで均一な混合物を得ることができない」、ということが常識だったからです。理論的にもフローリーハギンズの理論から相分離する組み合わせで、この検討を行う動機となる(素直な?)科学的根拠は、均一に混ぜるために他の化合物を添加する(不純物になります)方法以外に見当たりませんでした。科学的には否定される(ような)組み合わせでしたので、私の学位論文では、均一な化合物ができているところから始まっています。均一な化合物を合成する過程そのものも科学的に取り組むならば、学位取得者が2-3人出そうな分野であり、私はそこを自分の研究対象から外しました。しかし、科学的に「完璧に」否定できなかったので、当時の科学的常識では説明できないことを技術として完成させることにチャレンジしました。
科学的に「完璧」に否定できなかった理由として、リアクティブブレンドの可能性があったからです。今ではリアクティブブレンドは常識ですが、当時はまだゴムの改質技術として一部で使用されているだけでした。「AとBが混ざらないならば均一な物質はできない」というのが常識で言われていた命題でしたが、この対偶は、「均一な物質ができるならば、AとBがまざる」となります。AとBが必ずまざる可能性としてリアクティブブレンドが浮かび上がりました。論理学である命題の対偶どおしは真である、すなわち対偶の関係にある命題は同じ結果が得られますのでアイデアを考えるときに便利です。ある命題を考えていてアイデアが出ないならば、その対偶の命題を考えるとアイデアが出やすくなることがあります。
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