2012.09/21 ガラスを生成して樹脂を難燃化(1)
軽量化タイヤ開発、樹脂補強ゴムによる防振ゴム開発、ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの開発は、新入社員時代の1年間に経験したテーマです。最初の2つのテーマは、指導社員が企画されたテーマで、開発技術の成果は、その後商品化されました。ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームは、始末書まで書かされました思い出深いテーマです。しかし、商品化はされませんでした。
始末書という結果に納得はしていませんでしたが、せっかく開発した技術シーズを生かせないか考えました。なぜ、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの難燃性が高いのか、徹底的に解析しようと試みましたが、当時の難燃化技術に関する科学的情報は、大変少なかった。難燃化規格は、各業界まちまちで、それぞれの規格に相関が無い場合もあります。アメリカでUL規格が話題になり、日本ではLOIのJIS規格が検討されている時代でした。
当初科学的アプローチを試みて、TGAやDSCなどの熱分析と難燃規格との相関、燃焼機構の仮説設定などやり始めましたところ、指導社員から一笑に付されました。論文なども出ており、その追試を行ったが、怪しい結果がほとんどとのこと。すなわち科学的アプローチは、無駄な努力というわけです。指導社員は当時としては珍しい理系女史で、もし10年前に理系女子のミスコンに参加していたならば優勝しそうな美人でした。すでに既婚者で仕事の姿勢にも余裕がありました。
部下の奮闘努力を笑いながら、燃えかすの解析をするとおもしろいとのアドバイスをしてくださいました。燃えかすの解析をしたところ、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの燃えかすには、リンが多量に残っていましたが、他の難燃剤を用いた系では、難燃成分がほとんど残っていませんでした。
燃えかすに難燃剤の成分が残っているのは不思議な結果だから再度調べるように、指導社員から指示が出ました。ホスファゼンは、リン酸に分解しにくく、温度が上がれば高分子量化するから当然の結果だ、と反論しましたが、それもおかしい、と言われました。とにかく再度燃えかすを分析しましたが、やはりホスファゼンを添加した試料の燃えかすにだけ、多量にリン成分が残っていました。なぜだろう、と言うことで議論しましたが噛み合いません。
議論が噛み合わない原因についてすぐに気がつきました。指導社員は現実の結果を重視しています。そしてそれ以上の仮説を膨らませません。大学で読んだ文献の話を持ち出しても、自分たちの実験結果ではないから、とはねつけます。あげくの果てに仮説を妄想だと指導社員は言い始めました。議論は平行線となりましたので、仮説を実証できるポリウレタンを合成したら信じてくれるか、と言ってしまいました。コストが安く実用性があるなら自由にやってよい、との許可が出ました。
どうもホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームで始末書を書くことになったのは、コストが不明な研究企画を推進したことにあったようです。難燃機構の議論から始末書の理由が判明し、次の仕事の企画まで任されました。
ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの難燃化機構について妄想と言われた仮説は、燃焼時にホスファゼンが重合し、燃焼面を被覆するとともに炭化促進の触媒として機能し、難燃性を高めた、という内容です。実際に得られていたデータは、燃えかすの中のリンの量がホスファゼンの添加量に相関するというデータだけです。しかし他の難燃剤では、添加した成分のほとんどが系外へ消えているという分析結果でしたので、いくら妄想と言われても、これを信じてコストの安価な難燃システムを設計する以外に始末書のリベンジをする機会はありませんでした。
燃焼時に重合して、燃焼中にも燃焼している系内に残り、炭化促進触媒として機能する難燃化システムとして当時考えましたのは、リン酸系ガラスを燃焼時に生成するシステムです。リン酸系ガラスであれば、リン酸のユニットが、炭化促進の触媒として働く可能性があり、耐熱性も十分です。
問題は「結論」から考えろ、セミナーでは、高純度SiCの発明の時に逆向きの推論を考案したように説明していますが、燃えかすの分析をしたり、その燃えかすの生成仮説を立てたり、と、当時すでに逆向きの推論を無意識に日常展開していました。また、思考実験については、学生時代にニュートンのリンゴの木の話を読んでいましたので、仮説を考える時に実践していました。
カテゴリー : 高分子
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