2012.09/25 不可解な現象を前に人はどのように考えるか(2)
科学論文に書かれている常識と異なる現象と対面したときに、研究者ならば真理を追究するアクションを取るでしょう。しかし、技術者は、ロバスト性(注)が高く再現するならば、新技術として活用しようとします。また、堅実な経営者あるいは実務の管理者ならば、自己の使命に照らし合わせ、使命と無関係ならば、何も考えず避けて通ります。
仕事で遭遇した不可解な現象に対し、その立場や職業により、人は考え方が異なります。社会におけるこのような問題認識の違いを理解できるかどうかが、技術者の成長の尺度のような気がしています。
大学を出てきたばかりの理系の社員は、長い学校生活で科学の姿勢を学びますので研究者的思考をし、それ以外の思考を理解できません。少なくとも私はそうでした。しかし、新入社員発表会におけるCTOの言葉や樹脂補強ゴム開発における指導社員のレオロジーという学問の説明、そして難燃性ポリウレタンフォームにおける指導社員との衝突を通じ、研究者と技術者の姿勢、問題認識の違いを理解することができました。また、それを理解することができましたので、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの解析を中断し、新しい難燃システムへのチャレンジを受け入れたのです。
研究者的思考、価値観では、経営者や実務管理者の理解は容易です。むしろそれを理解し、研究者であることを優越感に感じる人もいるかもしれません。しかし、不可解な現象を前に、真理の追究をしないで、それをすぐに活用しようとする技術者の思考や価値観の理解は、研究者にとって大変難しいことだと思います。新入社員発表会におけるCTOの言葉の意味を真に自分の成長のための言葉と理解できましたのは、新しい難燃システムへチャレンジを始めた時で、たった一言を理解する為に1年近くかかりました。3年近く前の葬儀では、御礼の気持ちを込めて末席で献花をさせて頂きましたが、技術者とはどのように考えるべきかをよくご存じであった経営者の一人だと思います。
「カンと経験と度胸」これは、真理の追究をしないで現象の活用ばかりに走る技術者を研究者が軽蔑して言っていた言葉のように思います。しかし、科学の無い時代における技術の進歩を見るにつけ、「カンと経験と度胸」でも技術開発ができるように思われます。問題となるのはイノベーションのスピードで、「カンと経験と度胸」以外に現代の技術者はもう一芸を身につける必要があるように思います。
多くのイノベーションが、科学の世界で起きていることに着目しますと、イノベーションを起こすことのできる技術者とは、大学までの長い学生生活で培った研究者の心を忘れない技術者だと思います。研究者の心を忘れず最先端の科学の成果を技術へ昇華させることのできる技術者がイノベーションを起こすことができる技術者ではないかと思っています。
科学の最新情報の入手は、情報化時代の今日難しいことではありませんが、それを取捨選択し知恵を働かせて技術へ昇華させることは容易ではありません。推論を重視した問題解決力を鍛えることも大切です。数学の受験参考書には、「結論からお迎え」という標語でまとめられておりましたが、大学入試で活用していた「逆向きの推論」は重要で、「問題は「結論」から考えろ!セミナー」でも紹介しています。
この推論のスキルは、科学の最新情報から自分の技術領域へ推論を展開するときにも応用できます。科学の成果を技術へ展開したり、技術成果を科学の成果にまとめたりして、このスキルを高めてゆけば、イノベーションが可能な技術者になれるのではないかと思います。
(注)外乱や環境変化に対して、それを阻止するように、即ち外部因子の影響に対して安定であるシステムのことをロバスト性が高い、という。ロバストネスともいう。
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