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2012.09/27 学会発表の意義

企業活動において学会との関係は、経営者の考え方や各企業の方針で大きく変わるかと思います。32年間研究開発に携わり、学会活動も行ってきた経験から、知財との関係で学会発表の長所の例について。

 

学会発表は、企業活動において短所もありますが、積極的に活用しますとその長所の方が大きいことに気づきます。特に知財面では、特許出願で抑えきれない分野を科学的に公知とすることで、「奇妙な」特許出願を抑制することができます。公知化には、学会発表以外にもいくつか方法がありますが、学会発表における公知化では、実用化しようとする技術の権利範囲が科学的に不明確である場合に特に有効です。

 

例えば結晶と非晶質の境界は曖昧です。分析技術が高度化し、ナノ結晶の実態も明らかになってきました。ナノ結晶を非晶質に入れるのか文字通り結晶にするのか、物質ごとに意見が分かれる場合があります。先願の実施例に書かれた合成法では、ナノ結晶しかできないことに着目した後発メーカーが、ちゃっかりと結晶を権利範囲とする特許を多数出願し、気がついたら後願の特許群に権利範囲を全部抑えられていた、ということを経験しました。当然ながら、このような特許群に対して、科学的証拠で対応すれば、先願の権利範囲周辺についてぽっかりと穴を開けることができますが、科学的証拠を集めにくい状況では、学会発表が有効です。学会発表で科学的事実を積み重ね、特許の不明確な境界を過去から存在したであろう客観的事実で記述できれば、特許の権利の境界を明確にすることができます。

 

また、あまり知られていない古い情報があり、新概念で生み出した技術とその関係が不明確の場合に、学会で議論を行うと情報が掘り起こされるとともに、新概念の客観的位置づけを知ることができます。硼酸エステル変性ポリウレタンフォームの特許は、硼酸エステルの文献情報が多数存在し、現物は見つかっていませんでしたが、リン酸エステル系難燃剤との組み合わせ技術の存在が疑われましたので、かなり権利範囲を限定し出願いたしました。しかし、ガラス生成による難燃化技術として学会発表を行いましたところ、概念そのものが新しいとわかったので、特許出願を工夫すればもう少し広い範囲の権利化ができたのではないか、と反省しています。

 

すなわち、当時まだアルコキシドによるゾルゲル法が登場したばかりで、高分子マトリックスを活用し無機材料を合成する技術は、この難燃化技術が生まれてから5年後に学会発表が活発化しています。有機無機ハイブリッドの研究発表は、1980年代のセラミックスフィーバー以降活発になりました。ゆえに硼酸エステル変性ポリウレタンフォームの発明の内容を有機無機ハイブリッドとし、高分子前駆体をセラミックス原料に用いる発明まで拡大すれば、基本特許とすることができました。もったいないことをした、と現在後悔しております。学会発表は、単なる情報収集だけでなく、知財権の観点で積極的に活用する場として見直してもよいのでは、と思っています。

カテゴリー : 一般

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