2012.10/02 出会い
科学技術庁無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学する手続きは、少し面倒でした。アカデミアの先生からご紹介をいただき、猪股先生に電話にて面会のご都合を伺ったのですが、セラミックスの研究経験が無いことと、ビジターの定員3名という制限でSiCの研究グループが満員であることを理由に、面会そのものが断られました。ファインセラミックスフィーバーの状況で、同様の問い合わせが、フィーバーの中心素材でもあるSiCの研究グループへ数多くきているのではないか、と想像しました。
その2週間後学会で猪股先生にお会いすることができ、初対面で生意気とは思いましたが、猪股先生の発表内容に関して肯定的なコメントさせていただき、SiC合成のための新しい前駆体高分子とそれを用いたシリカ還元法の反応機構を研究するシナリオのお話をさせていただきました。猪股先生は、セラミックスの新しい焼結理論の構築に努力されていましたが、日本セラミックス協会の古い研究者には支持されていませんでした。
当時教科書に載っていた焼結理論は、電子顕微鏡の観察結果から導かれたような理論でしたが、猪股先生の理論は、科学の世界では一般的な熱力学に基づく理論で、高分子や無機の結晶の速度論や自由エネルギーの考え方と共通に論じることができる、科学的な理論でした。しかし、日本セラミックス協会誌には、その科学的理論に批判的意見が掲載されていました。猪股先生にゴマをするつもりは無かったのですが、先生の理論から、高純度SiC用前駆体高分子の熱重量分析データを活用する速度論的研究のアイデアが浮かびましたので、その研究アイデアの評価を頂くため、アイデアの基になった先生のご研究に対し肯定的なコメントをする必要がありました。
猪股先生から、「君のSiCの研究テーマを研究所に持ち込んで頂いては困るが、SiCについてそこまで詳しいのならば、留学の件何とかしましょう」と言ってくださり、会社の上司と無機材質研究所へ訪問することになりました。この時猪股先生から、無機材質研究所で動いているテーマのお手伝いをする覚悟で留学するようにクギをさされました。すなわち、高純度SiCの新合成法の研究やその反応速度論の研究を無機材質研究所でしてはならない、とまで明確に留学の条件を提示されました。
直属の上司であるO課長とY取締役、私の3名で無機材質研究所へ訪問いたしました。研究所を見学後、猪股先生は、田中無機材質研究所長をご紹介くださり、その場で留学の許可を頂くことができました。田中所長もSiCの研究者として著名な方で、学会で猪股先生にお話ししたSiCの反応速度論の研究シナリオについて、ほめてくださるとともに、無機材質研究所で3年間勉強した後、必ず高純度SiCの研究を成功させ事業化を行うよう私たちを激励してくださいました。
高純度SiCの新合成法発明の機会ができただけでなく、この田中所長との出会いで、新しい問題解決法を生み出すこともできました。その詳細につきましては、「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」(注)に紹介しております。また、「問題は「結論」から考えろセミナー」(注)では、問題解決法の手順に絞り、セミナー形式で解説しております。是非ご一読ください。
(注)クリックして頂きますと、リンク先からサンプルを閲覧できます。
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