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2012.10/07 2000℃まで測定可能な超高温熱重量天秤

SiCの線膨張率測定を行いながら、YAGレーザー加熱により得られる高温度が、極めて安定であることにびっくりしました。SiCの単結晶は、逆向きの推論(1)を用いて開発したばかりの接着剤で空間に固定され、透明石英管の中にアルゴン封入された状態であり、断熱材は使用していません。YAGレーザーで単結晶に供給されるエネルギーと外部に放出されるエネルギーのバランスが釣り合っているため、と推定されますが、YAGレーザーのパワー30%程度で簡単に2000℃の環境が得られます。

 

この実験は、留学後予定していたシリカ還元法の反応速度論研究に用いる実験装置の大きなヒントになりました。すなわち、シリカ還元法は1600℃以上の高温度でシリカを炭素で還元する方法であり、その反応をモニターするには、1600℃以上の高温度を瞬時に安定的に発生できる熱源と天秤が必要です。天秤は温度変化で誤差を生じますので熱源を可能な限り小さく設計する必要があります。実は、固相反応だけで進行するシリカ還元法の研究開発の戦略はできていたのですが、このときの実験で使用する超高温熱重量天秤の熱源について、逆向きの推論(1)から得られた、可能な限り狭い領域だけを加熱できる赤外線イメージ炉を採用する予定でおりました。しかし、赤外線イメージ炉よりもさらに狭い領域を安定に加熱できる熱源のヒントが、この実験から得られたわけです。

 

科学では、ある仮説の正しさを証明するために実験を行なわなければならない場合があります。いくら仮説が正しくとも、仮説を支持しない実験データが得られたならば、その仮説の信頼性は下がります。ゆえにどのような実験を行うのか、実験計画や実験に使用する装置が重要になってきます。重量減少をモニターし、反応速度を求める実験では、時々刻々と変化する重量を精度良く測定できる天秤が必要で、室温から1500℃までの温度変化程度ならば、精度の高い重量変化を追跡できる熱重量天秤が開発されておりましたが、SiCの反応温度1600℃以上で重量減少を計測できる超高温熱重量天秤については、新たに開発する必要がありました。

 

このSiCの線膨張率測定実験を開始してから1年半後、2000万円かけてYAGレーザーと赤外線イメージ炉を併用した2000℃まで測定可能な超高温熱重量天秤の開発に成功しますが、研究開発における実験の位置づけを考えると、実験装置の設計は研究者自ら行う必要があり、また、ユニークな実験方法であれば、それがまた新たなアイデアを生み出す基になりますので、実験そのものも自ら率先して行うことの重要性を学びました。高温度におけるセラミックス単結晶の線膨張率を直接計測する装置は、井上善三郎博士の考案によるもので、大変ユニークな研究者でした。ただ、ユニークな装置も2000℃という高温度まで耐える接着技術が世の中に存在しなかったために、1000℃までの実験装置として使わなければなりませんでした。そのような状況で、逆向きの推論(1)を用いて、2000℃以上まで耐えられる接着技術を開発し貢献できましたので、超高温熱重量天秤にYAGレーザー加熱を組み合わせるアイデアの使用を許可して頂きました。

 

 

<参考情報>

(1)「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」をご覧ください。

 

 

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カテゴリー : 高分子

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