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2013.02/18 弊社の問題解決法について<32>

山中博士以外にも多くの研究者が万能細胞の研究に携わっていましたが、なぜ山中博士が最初にiPS細胞を発見することができたのでしょうか。テレビ放送で説明された研究プロセスから成功の要因を推定してみますと、以下に示すアクションが重要なポイントと思われます。

 

(1)経験知だけで三万個から大胆に二十四個に絞り込む。答を最初に決める方法。

(2)選ばれた二十四個の遺伝子すべてをまとめて細胞に入れる、大胆な思いつき実験。

(3)二十三個の遺伝子の組を用いる巧みな実験。

 

(3)につきまして、山中博士の実験のどこが巧みかもう少し詳しく説明しますと、二十四個の遺伝子をすべて細胞に組み込んだ大胆な実験でiPS細胞ができていますから、この二十四個の遺伝子に含まれる特定の遺伝子の組み合わせで、細胞が初期状態にリセットされたと判断できます。この判断の下で以下に説明する消去法的発想に基づく、新たな二十三個の遺伝子を細胞に組み込んだ二十四組の実験を行い、iPS細胞を作るために必要な四個の遺伝子の組を簡単に見つけだします。

 

すなわち、(2)でiPS細胞ができていますから、この遺伝子の組を答と決めたことが正しいとわかりました。あとは二十四個すべて必要なのか、あるいは特定の組み合わせでiPS細胞ができるのかを決めればよいのです。今iPS細胞を作る為に必要な特定の遺伝子の四個の組を「遺伝子A、遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D」としますと、二十四個すべてからなる遺伝子の組は、「遺伝子A,遺伝子B,遺伝子C、遺伝子D,その他の機能しない二十個の遺伝子」と表現できます。

 

そこで遺伝子を1つずつ減らした二十三個の遺伝子からなる組を作ります。例えばiPS細胞を作る為に必要な遺伝子Aを取り除いた組は、「遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D,その他の機能しない二十個の遺伝子」、同様に遺伝子Bや遺伝子C、遺伝子Dを取り除いた組も、必要な遺伝子が一つ不足した三個の組と,その他の機能しない二十個の遺伝子として表現でき、この表現の組は四組できます。「遺伝子A、遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D」が揃っている組は、「遺伝子A,遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D,その他の機能しない十九個の遺伝子」の二十組作ることができます。

 

この新たに作成した二十三個の遺伝子の組み合わせ二十四組をそれぞれの細胞に入れた実験を行いますと、「遺伝子A,遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D,その他の機能しない19個の遺伝子」の二十組では細胞が初期化されますが、iPS細胞を作るために必要な四個の遺伝子の組から一つ取り除かれた四種の実験では、細胞が初期状態にリセットされずiPS細胞ができません。その結果、取り除いた遺伝子Aあるいは遺伝子B,遺伝子C,遺伝子Dが、細胞を初期状態にリセットするために必要な遺伝子であった、と明らかになります。

 

実験手順は、実際に見つかった遺伝子の個数を用いて説明いたしましたが、仮に四個以外の複数の組であった場合でも、iPS細胞ができなかった実験だけに着目すれば良く、大変巧みな実験方法であります。ただしこの方法は選択肢の中に正しい答えがあるとする、すなわちすでに答えを決めてしまっている非科学的な消去法の考え方です。

 

山中博士がなぜこのような非科学的実験プロセスを選ぶことができたのでしょうか。その理由をテレビ放送の中で(2)の大胆な実験で得られた結果で「成功を確信したから」と説明していました。すなわち(1)でおおよその答を決めて、(2)でその答え正しさを確信し、(3)で答を具体化した、と成功のプロセスを説明していたわけです。

 

ノーベル賞受賞研究の実験プロセスの説明が本書の問題解決方法と似ており、最初に答を決めることが問題解決のコツと確信したことがこの本を書くきっかけとなっております。答が分かっているならば、それは問題にはならないだろう、という疑問を持たれるかもしれません。すでに説明しましたが、この本で意味する最初に決める答とは、こういう状態であってほしいという願望とか「あるべき姿」のような概念的な答です。この概念的な答が決まると、それを具体化するためのアクションやアクションの組み合わせ、すなわちアクションプランを考えなければなりません。それは問題を解くという行為になります。

 

最初に答を決めて、何が問題かを明確にし、その次にアクションプランを考える手順が本書で提案した問題解決プロセスの特徴であり、従来行われていたような、先に問題設定がありその問題を分析してアクションプランを求めるやり方とは順序が逆になっているだけでなく、答を設定して問題を考えるというイメージの、常識でとらえると不思議に見える方法です。しかし、この不思議な方法を山中博士は実行し、ノーベル賞を受賞しています。ノーベル賞の効果は大きく、多くの方は不思議と捉えず、頭の良い方法と感じたのではないでしょうか。

 

もし、山中博士が従来の科学的な問題解決法を用いたならば、iPS細胞を作る技術を問題としてとらえ分析的に問題解決をして、約三万個の遺伝子の中から機能を発揮する遺伝子を探すために一つ一つ調べるというような膨大な実験、それこそ一生かかっても終わらない実験を行うことになります。おそらくこの分野の多くの研究者はこのようなやり方で研究を続け論文を書いていると思います。

 

しかし、iPS細胞を作る技術という問題には、遺伝子を複数組み合わせて細胞に組み込んだ時の問題とか、そもそも多量の遺伝子を一度に細胞に組み込むことができるのか、とかいろいろ細かい多くの問題があるそうで、これらの問題を分析的に解いていった場合には、問題の中に問題の山が詰まっている状態をさまようことになります。

 

そこで山中博士は、理化学研究所の遺伝子データベースを使用して、最初に答を決めてから実験を行っていったのです。

 

                      <明日へ続く>

カテゴリー : 連載

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