2013.03/27 高分子材料の劣化(ケミカルアタック)
樹脂部品にグリースなどの油成分が付着していると力学物性の劣化速度が速まる、という現象が生じる。ケミカルアタックと呼ばれる現象で、付着した油成分が樹脂内に拡散し、クレーズを発生させ靱性を低下させたり、樹脂を可塑化し弾性率を低下させるために起きる。
ケミカルアタックは樹脂と油成分とのSP値の関係で決まるので、機械油を使用する場合にはSP値が異なる材料の組み合わせを選ぶように、とその分野の教科書には書かれているが、言葉足らずである。例えば樹脂に表面処理された無機フィラーが添加されていた場合である。
本来樹脂に分散しにくい表面を持った無機フィラーを表面処理して樹脂に分散しているのだから、無機フィラーの表面のSP値に相当する性質は、樹脂のSP値から離れている。もし無機フィラーが油成分と濡れ性が良い場合には、油成分が無機フィラーと樹脂の界面に分散し、クレーズを発生させる場合がある。
油ではないが水分の場合でも物性劣化を引き起こす場合がある。例えば樹脂レンズの場合に樹脂の添加剤にわずかに親水性を有する化合物が添加されていた場合には、水分で樹脂レンズが曇りやすくなる。例えばわずかに残っている未反応の二重結合などは親水性が有るのでレンズの曇りを促進する原因になり得る。これは透過率の低下が引き起こされたケミカルアタックとして考えるべきではないか。
またわずかに残った二重結合やUVに反応しやすい化学構造がある高分子材料でブリーレイ用の対物レンズを製造するとブルーレイで高分子緩和が促進される。緩和現象は物理現象であるが、その緩和を引き起こしているのは化学構造と物理因子である。これもケミカルアタックの仲間に入れても良いように思うが、これには異論のある方が多い。しかし、高分子の主鎖そのものには劣化が生じていないが、材料には劣化と同様の現象が化学構造で引き起こされているので、ケミカルアタックとして議論されても良いように思う。
このようにケミカルアタックは高分子の主鎖の断裂が起きていない場合でも高分子材料の劣化という現象を引き起こす。やっかいなのはこのケミカルアタックという現象が揮発性の油で引き起こされている場合である。明日は樹脂と油により引き起こされるケミカルアタックに絞り説明する。
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