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2013.04/06 高分子材料の熱膨張

昨日高分子材料の気持ち悪い現象について触れた。本日は熱膨張の測定でで観察した気持ち悪い現象。光学材料用ポリオレフィンとしてアペルやゼオネックスが10年以上前から使用されてきた。10年以上前の話で恐縮するが、光学的耐久性を力学的パラメーターから予測しようと実験していた時に体験した話。ここでは気持ち悪い現象だけ説明するが、その深い意味等ご興味ある方はお問い合わせください。

 

材料の熱膨張の測定にはTMAが用いられる。無機材料の研究には良く用いられるが、高分子材料では、DSCやTGAに比較して使用頻度が少ないように思う。ゴム会社で高純度SiCの事業を立ち上げ、セラミックスの研究者としてTMAを使い込んだ経験から、フィルム会社で高分子材料の研究を始めるに当たり購入したのはTMAである。TMAを気に入っている理由は、直感と分析結果が結びつきやすいことである。測定しているのは温度上昇に伴う線膨張で物質の状態変化が生じれば線膨張率が変化する、という単純な現象の測定である。それ以上の情報が得られないのであまり使われない、という研究者がいるが、単純な現象ゆえに物質の異常をマクロ的につかみやすく、商品開発においては便利な道具である。

 

例えば材料の耐熱性を考えるときにガラス転移点が指標に使われることが多い。ガラス転移点まで材料の状態が変化しない、と暗黙的に信じられているからである(これは危険な常識である)。しかし、複合材料になってくると界面の問題が関わってくるので複雑になる。セラミックスでは粒界で生じる現象を考えなければならない。そのようなときにTMAは便利である。ミクロ領域の状態の変化を線膨張率の変化として検出してくれるのである。

 

さて、単体の物質であれば材料の融点までガラス転移点の前後で線膨張率が変化する。高分子材料ではガラス転移点と融点の間で結晶化が起きる場合もある。そのような場合にはガラス転移点と融点の間で結晶化に伴う状態変化が観察される。すなわち室温から融点までの間にガラス転移点で1回目の、結晶化温度で2回目の状態変化に伴う線膨張率の変化が観察される。これは平凡な材料変化の場合で、通常はこのような変化が観察されると安心できる。またこのような情報はDSCでも得られるのでTMAなどいらない、ということになる。

 

しかし、得られる状態変化のパラメーターが同じでもDSCとTMAでは見ている現象が異なるので、DSCでは観察されないが、TMAでなければ観察できない現象が存在する。また、その現象が気持ち悪いのである。

 

いくつか例をあげると、一種類の高分子であるはずのアペルやゼオネックスで観察された現象であるが、ガラス転移点と思われる現象が2つも見つかったり、ガラス転移点が一つの場合でも、ガラス転移点に到達する前に線膨張率が増加したり減少したりする現象が観察された。またアペルやゼオネックス以外でも観察されることがあるが、ガラス転移点を過ぎてから熱膨張のグラフがグニャグニャうねることである。アペルやゼオネックスでは、これがガクンガクンという感じに変化する場合がある。これらのTMAで観察される変化が、DSCでは何も検出されていないので気持ち悪いのである。分かってしまえばすっきりするが、すべてすっきりするまで10年以上かかった。

カテゴリー : 高分子

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