2013.04/09 PENフィルムの巻き癖(2)
PENフィルムの損失係数を規定した特許は脅威に感じられた。しかし、特許をよく読むと、レオロジーを知らないのか、あるいは意図的にインチキ特許を書いたのか不明だが、科学的におかしい特許であった。すなわち損失係数の測定と書かれているが、大きな応力をかけて測定していたのである。
粘弾性の測定に詳しい技術者ならば、この測定方法がすぐにおかしいことに気がつく。すなわち粘弾性の性質を評価するためには、本来応力ゼロで測定することが望ましい。しかし、応力ゼロでは物性測定ができないので、わずかな歪みをかけて測定することになる。
特許では、サンプルに大きな応力をかけていた。すなわち損失係数の測定と特許には記載してあるが、応力緩和と相関するパラメーターを測定していることになり、物質固有の損失係数の測定になっていないのである。発明者が粘弾性に詳しくないか、あるいは特許審査官の目を欺くための手法なのか不明だが、物質固有のパラメーターを規定した特許になっていないことに気がつき安心した。
PENフィルムの巻き癖はPENが応力緩和して現れる現象であることが解明されていた。応力緩和とは、長年使用していたパンツのゴム紐が伸びた状態になるような現象である。中年太りの体型だったので応力緩和の実験量は豊富であった。ゆえにPENの巻き癖解消技術に関してはすぐに理解ができた。すなわちフィルムを巻いた状態にしていると、フィルムの内側は圧縮応力を、外側は引張応力を受けることになる。その結果応力緩和で巻き癖がつくのである。
PENの損失係数を規定したライバル特許は、損失係数を扱っているが、実際には応力緩和しない領域をパラメーターで規定しているだけの特許であった。樹脂の応力緩和が高次構造に影響を受けることも当時知られており、異なる高次構造を作り出して応力緩和しにくいPENにすればよいのである。
若い技術者に考えたことを説明したら、高次構造の制御と簡単に言うがどのように構造制御したら良いのか、と質問された。ライバル特許を読んでいてすぐに指示してきた仕事であると気がつく頭の良い社員である。頭のいい人はとかく生まれたばかりのアイデアを否定する傾向にある。君ならできる、と持ち上げたら、すばらしいアイデアだから一緒に考えてください、と上司の私が丸め込まれ、PENの高次構造を必死に勉強することになった。確かにアイデアまでは良かったが、世の中に情報が無い世界であった。科学的に難しいのであれば、技術的なセンスで問題解決する以外に方法の無い状態だった。
<明日に続く>
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