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2013.04/11 PENフィルムの巻き癖(4)

ライバル技術では長時間アニールというプロセス手段を用いて、高次構造の制御を行い、巻き癖を解消していた。長時間アニールで密度がわずかに上がり、応力緩和しにくくなった。この密度上昇が高次構造を制御した結果というのがライバル技術で、その説明にはPENの結晶部分と非晶部分において、非晶部分の自由体積のパッキングが進んだためと書かれていた。

 

高分子の長時間アニールは一般にガラス転移温度以下で行われる。ゆえに特許に書かれている熱処理温度の領域は、高分子技術の観点で公知領域となるが、PENの巻き癖と結びつけた技術は初めてなので特許として成立する可能性が高かった。

 

ところで弊社の問題解決法を当時すでに実戦で使用していた。さっそくホワイトボードにあるべき姿のマンガを書いた。詳細は省略するが、コーチングを行いながら、高温度短時間アニール技術が問題解決した解答として得られた。

 

ガラス転移温度以上で熱処理を行うと樹脂では変形が生じる。フィルムならばでこぼこのフィルムになる。ゆえにガラス転移温度以上のアニールは非常識な結論である。このような結論を頭の良い社員に納得させるためには、自ら解答を出したと満足できるコーチングが最良の方法である。

 

コーチングは効果的で、すぐに工場で試作をしようと頭の良い社員は言い出した。火はついたが燃焼を制御できない状態になった。社内のルールではパイロットプラントで試作を行ってから工場の試作に移るのだが、頭の良い社員は、技術内容がパイロットプラントのデータを活用できない”キワモノ”であることに気がつき、工場で試作した方が早い、と言いだした。失敗すれば1000万円が無駄になるが、若い熱意に動かされ、いきなり工場試作を行う決断をした。しかし、基礎データも何も無く、いきなり工場で実験という手順については社内調整が大変だった。硬直した会社では不可能な調整である。

 

しかしこの写真会社の風土はこのような場合に良い方向に働く。若い人に評判の良い会社である。山を乗り越え、1日工場を借り切って実験を行ったら、大成功であった。ライバル技術の特許に抵触しない巻き癖のつきにくいPENフィルムが高温短時間アニールで完成し、量産試作に成功したのである。”キワモノ技術”と心配したが、面白いことに試作ラインで後から実験を行っても、きちんと再現する”科学的な”技術であった。また、できあがったPENの高次構造がライバル技術のプロセスで作られる高次構造と異なっていることも分析データで得られた。

 

高分子の高次構造制御を解説している教科書は多い。そこには実際に見てきたようなマンガが書かれていたりする。この開発ではそのマンガが大変役にたった。工場試作を行う前に頭の中でマンガが展開されたのである。そしてできたような気になって、若い人の心に火がついたのである。

 

技術開発では”成功する”と信じる熱意がまず重要である。熱意はスピードを生みだす。これほど短時間の技術開発は、ゴム会社で行った高純度SiCの開発以来である。科学的に未解明の領域の技術は、高純度SiCの開発経験で生まれた弊社の問題解決法が効果的に働く。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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