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2013.04/15 炭素繊維

炭素繊維はピッチ系炭素繊維が安価にもかかわらずPANから製造される炭素繊維の品質が良好のため、最も普及している。その価格も下がってきた。日本を代表する化学技術の一つである。かつて高純度SiCのパイロットプラントを立ち上げ後、半導体のマーケットを探索して死の谷を6年間歩いていた時、毎年新しい企画を提案しながら研究予算を工面していた。そのころ、このPAN系炭素繊維に匹敵する品質の炭素繊維をフェノール樹脂繊維(カイノール)から製造することに成功した。

 

カイノールから炭素繊維を製造するのは簡単だが、PAN系炭素繊維と同等の引張強度が出ないのが難点。PANよりも残炭素率が高いにもかかわらず、難黒鉛化炭素ができてしまうので引張強度がPAN系炭素繊維の半分程度となる。曲弾性率にはあまり差がみられないにもかかわらず引張強度が低いのは、炭素繊維の高次構造がPAN系に比較し無秩序でどこかに強度を低下させる欠陥があるためと思われる。

 

カイノールを易黒鉛化するためには、PANのように加熱時に延伸し芳香環を整列させれば良いが、カイノールでは高次構造が3次元化しているので、延伸しても芳香環をPANのように整列できない。その結果難黒鉛化炭素が構造としてできる。延伸力を上げると炭化が開始する温度で繊維が切れる問題があるので延伸力を上げられない。

 

面白いのは延伸力の大きさで切断する温度が不規則に異なるのである。この現象を発見し、昇温速度を一定にして延伸力を調節しながらカイノール繊維を炭素化したところ、引張強度がPAN系並みに向上した。恐らくカイノールでは3次元化していたフェノール樹脂の構造が300℃から450℃にかけて変化し、この構造変化に呼応して延伸力を調節してやると芳香環をうまく整列させることができるのであろう。またこの温度領域で延伸力との組み合わせでカイノール繊維は軟化するような挙動をとる。三次元化していた構造が二次元化するためと推定しているが、研究報告は無い。

 

これはそれなりに面白い実験結果だと思ったが、上司からSiCでは無いので意味が無い、と言われた。特許部からも特許出願には費用がかかるので出願しない、ということになり、せっかくの成果が無駄になる。SiCならば評価してもらえるのか上司に尋ねたら、SiC繊維で炭素繊維並みの価格ならば意味がある、との回答。当時矢島先生が発明した、ポリジメチルシランを前駆体高分子に用いたSiC繊維が販売されていた。しかし高価であった。また炭素繊維を置き換えるほどの魅力が少なく価格が下がる見込みが無かった。

 

そこでカイノール繊維から炭素繊維を製造する実験結果を活かすために炭素繊維同等の価格を目標にSiCとCとの複合繊維開発の企画を立案、1年間研究開発を行い、繊維補強アルミニウムを開発することに成功した。明日SiCとCとの傾斜組織複合繊維について書く。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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