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2013.04/25 成功する技術開発(2)

異なる低分子の組み合わせで混合したときの現象については基礎的な物理化学の教科書に書かれた内容でほぼ説明可能である。ほぼ、という表現を用いたのは、低分子の組み合わせでも科学的理論からはずれた現象が観察されることがある。これが高分子の組み合わせになると、まず均一に混合するところから困難になる。

 

高分子と低分子の組み合わせについて希薄溶液ではフローリーの基礎的研究が科学的に正しい、と言われている。すなわち誰がどこで行っても再現する理論である、とされている。しかし、高分子の濃度でたった1-2%の世界の話で、この濃度を超えると低分子溶媒の中で高分子どおし接触が生じ理論から外れてくる。また再現性も怪しくなる。

 

高分子と高分子の組み合わせで生じる現象について、この低分子の組み合わせの世界で生じている現象と同様の捉え方で理論が構築されている。フローリーハギンズ理論がそれで、大雑把な理論にもかかわらず高分子の教科書に取り上げられている。

 

異なる低分子の組み合わせで均一になるかどうかは、溶解度パラメーター(SP値)で吟味される。高分子についても同様にSP値が用いられるが、フローリーハギンズ理論ではχパラメーターが定義されている。ややこしいのはこのχパラメータがSP値の関数である、という教科書が存在することである。

 

ゴム会社にはいるまでそのように信じていたが、指導社員から高分子のSP値は低分子溶媒に高分子を少量溶解して完全に溶解したときにその溶媒のSPと一致する、という定義であると指導された。χパラメーターと別物であるとも習った。またSBRと書かれていても銘柄が異なればSP値が異なることもある、と聞いてびっくりした。ゴムのブレンド実験をするときにいつも低分子溶媒でSP値を確認するように指導を受けた。χパラメーターやフローリーハギンズ理論は実務で信用されていなかったのである。また言葉は同じでも高分子のSP値は実験値であり、熱力学的パラメーターの関数と等しい、としてはいけないのである。

 

ただ数年してこの常識が常識では無かったことに気がついた。社内でもフローリーハギンズ理論を重視する研究者がいたのである。これは大切なことで、早い話が異なる高分子の組み合わせを混合したときに生じる現象はよく分かっていない、ということである。よく分かっていない現象について、教科書によく分かっているような書き方がされているので技術開発にも影響がでているのである。

 

SP値が異なる高分子の組み合わせ、あるいはχパラメーターが異なる高分子の組み合わせは必ず相分離する。この事実は正しい。そしてその相分離過程はスピノーダル分解で進行する、というのも正しいかもしれない。しかしχパラメーターがSP値の関数となる、というあたりから怪しくなる。この怪しい世界の現象についてどのように接するのか、この接し方でアイデアの出方が変わる。<明日へ続く>

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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