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2013.05/06 成功する技術開発(13)

製品化を半年後に控え、絶縁体の樹脂と6ナイロン樹脂、カーボンの配合系について思い切った施策を打てる状況になった。6ナイロン樹脂とχの小さいナイロン樹脂の併用系はコンパウンド納入メーカーに任せておけば仕事は進む。6ナイロン単独系で得られている実験結果は科学的な視点で電気特性を均一にできても6ナイロンのドメインサイズを小さくできないので靱性の低いシートとなる。許されている技術手段はコンパウンドの購入先変更、すなわちコンパウンドのプロセス変更という手段だけである。

 

現場で許されている技術手段の中で最大限の努力をする。これは成功する技術開発のために重要な姿勢である。32年間の技術開発経験の中で上司の指示で残念ながら手を抜かざるを得ない状況(注)もあったが、最大限の努力を行った時には必ず何か得られた。不思議なことに真摯にその技術を追究すれば必ず何か報われた。成功体験は重要と言われるが、2-3度経験すると手を抜かざるを得ない状況以外一生懸命努力する習慣がつく。企業風土も影響するが、技術者の育成過程で成功体験を積ませることは大切なことである。裁量権の与えられたテーマをすべて成功することができたのは成功体験によるところが大きい。

 

6ナイロン単独系ではプロセス開発以外に技術手段は残っていなかった。中古の二軸混練機を購入し検討を始めた。二軸混練機の運転は初めての経験であった。スクリューのセグメントは最も剪断力のかかるセグメントに設定しコンパウンドの開発を始めた。2000年頃に高分子精密制御プロジェクトが国研として推進されたが、その時伸張流動が樹脂の混練で重要と言われ、ウトラッキーの伸張流動装置(EFM)も検討された。EFMは、量産に対応出来ない装置であったが、伸張流動でナノオーダーまで混練が進むことが確認された。世間で伸張流動に注目が集まった。

 

伸張流動を重視したセグメント構成が当時の流行で剪断流動を重視したスクリューセグメントは時代遅れともコンパウンドメーカーの技術者から教えられた。しかし、それでも剪断流動を重視したセグメント配置にこだわった。理由は混練効率が高いからである。カーボンブラックの分散を行うには剪断流動が必須と新入社員の時にゴム会社で習った技術の教えを忠実に守った。

 

混練温度とスクリュー回転数、投入量などを因子にL18実験を行い、得られたコンパウンドの写真を見たところ、外部から購入していたコンパウンドとカーボンの分散状態が変わっていた。外部から購入したコンパウンドの高次構造はやや微細に見えたが、カーボンブラックだけに着目してみると外部から購入していたコンパウンドでは、6ナイロン相にカーボンブラックが取り込まれていなかった。しかし中古の混練機で分散した場合にはナイロン相にカーボンブラックが取り込まれ、その相は大きかった。

 

完全ではないが、二軸混練機でもバンバリーで混練した場合と類似した高次構造のコンパウンドが得られることが分かった。コンパウンドを購入しているメーカーの技術者から素人の考えと一笑にふされた混練条件ではあったが、あるべき姿に近い構造のコンパウンドが得られる感触を得た。さらにカオス混合にも挑戦した。技術の詳細は弊社に相談して頂きたいが、二軸混練機でもカオス混合と類似の混練ができる。

 

驚くべきことに、絶縁体樹脂と6ナイロン樹脂はχが大きいにもかかわらず、透明な溶融体樹脂が吐出口から出てきたのである。その条件でカーボンブラックを添加してコンパウンドを製造したところ、あるべき姿と一致した高次構造を有するコンパウンドが得られ、そのコンパウンドを用いて半導体シートを製造したところ、電気特性の均一性が極めて高いシートが得られた。さらにシートの延伸条件を調節すると抵抗調整を1ケタの範囲でできることが分かった。

 

すなわち科学では否定的な答しか得られない配合でも技術で問題解決できたのである。さらにその問題解決手段では、必ず成功すると思われ外部メーカーに依頼していたコンパウンドよりも品質が高い半導体シートを容易に製造することができた。外部メーカーに依頼していたコンパウンドの場合、品質は劣り歩留まりは悪いが、一応製品仕様を満たす半導体シートを得ることができた。短時間の開発ではあったが、思い切った施策で、失敗すると懸念されたテーマが大成功の成果を生み出した。

 

<明日へ続く>

(注)研究開発管理を厳しく行うと成功とはほど遠い結果となる場合がある。組織活動において現場の担当者は上司に従わなくてはならない。技術開発では現場担当者の裁量をある程度認めたマネジメントが好ましい。なぜなら最新の実験情報に最初に接するのは現場の担当者である。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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