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2013.05/18 成功する技術開発(23)

無機材質研究所に留学して、I先生から1週間だけ研究所内の実験設備を使い、ゴム会社でできなかった実験の許可を頂いた。この1週間の実験で、高純度SiCの新しい合成法と高純度SiCを用いた焼結技術を完成するのだが、あえて「完成」と表現したのは、ほぼ現在もその時の条件で行っているからである。触媒はスルホン酸系の触媒からカルボン酸系の触媒に変わっているが、フェノール樹脂を助剤としてホットプレスで焼結体を製造しているところまでほぼ同じである。

 

実は、この1週間の実験で信じられないことが起きていた。今でも、なぜそのようなことが発生したのか解明できていないが。

 

炭化物前駆体を用いたSiC化の実験は、温度条件について1600℃、1700℃、1800℃、1900℃の順に行う予定であった。もしこの順序で実験を行っていたら焼結実験は時間が無くてできなかった。また、この温度条件の中に、微粉の粒度が揃ったSiCが得られる最適条件は存在しなかった。実はSiC化の反応条件は、たった1度の実験で最適条件が見つかったのである。

 

なぜたった1度の実験で最適条件が見つかったのか。それはたまたま電気炉が暴走したため、慌てて全電源を落としたが、1週間という限られた時間を思い出し、マニュアル運転で実験を続けたからである。

 

電気炉はプログラムコントローラーで制御されていた。SiC化の実験についてはその電気炉を管理していたT先生がプログラムをすべて組んで、簡単に使えるように準備してくれた。電気炉の運転は、ただプログラムナンバーを選び、選んだプログラムをRUNさせるだけであった。最初の条件である1600℃30分保持のプログラムをRUNさせたところ、1600℃で保持されず、電気炉は温度上昇をし続けた。当初オーバーシュートと思っていたが、プログラムは正常に動作しているのに、電気炉の温度が1700℃を越えたのである。

 

あわててT先生に電話をしたところ、非常停止ボタンを押すように言われた。そこで慌てて非常停止ボタンを押したが、すでに1800℃前後まで電気炉の温度は上がっていた。T先生が実験室に来られたときに、時間がもったいないから、マニュアルで1600℃に保持しよう、と言うことになり、1600℃まで電気炉の温度が下がったところで再度マニュアル運転により15分1600℃で保持した。翌日電気炉のふたを開けたら無機材質研究所の先生方が驚く結果になっていた。

 

この日の実験の特殊な温度パターンで高純度SiC微粉が得られたのだが、その後無機材質研究所で方針が変わり、この研究を完成させることになった。メーカーの技術者による電気炉の点検が最初に実施されたが、暴走した原因は不明であった。ただ心当たりがあったのは、実験がうまく行くように電気炉の前で直立不動のまま手を合わせ、ひたすらお祈りをしていたことである。

 

SiC化の研究を行い分かったことは、ある温度条件で保持してSiC化を行うよりも一度1800℃まで温度を上げた後、1600℃で保持する条件で効率良くSiC化できることである。すなわち電気炉が暴走したときの温度パターンが最良だったのである。

 

32年間研究開発に携わってきたが、このような不思議な体験はたった一度だけである。真摯な努力の威力を実感した。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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