2013.05/21 成功する技術開発(26)
フェノール樹脂とポリエチルシリケートを均一に混合した前駆体高分子を用いた高純度SiCの技術発表を日本化学会春季年会で初めて行ったときには、反響が大きかった。講演会場は7分という講演時間の発表に対し、廊下まで人があふれんばかりの混雑ぶり。驚いたのは一番前の席は京都大学S教授の研究室の方々が陣取っていた。
企業の研究発表としては、異例の早い時期での発表であった。無機材質研究所で行った研究という位置づけだったので外部発表許可が容易に下りたのだ。しかし、前駆体高分子の重合に関してはたった1日の実験データだけである。研究らしい報告と言えば、前駆体の熱分解を超高温熱天秤で評価したデータぐらいである。7分の講演なのでその程度の内容でも充分であったが、発表後が大変だった。
S教授から厳しい質問があり、研究未完成の評価を下されたのだ。今から思い返しても企業研究者に対して失礼な質問だったと思う。学会は完成された研究の発表であり、未完成の研究など発表するな、とまで明確には言われなかったが、それに近かった。
10年ほど前から日本化学会ではATPというセッションを設けて積極的に企業技術者や研究者の学会参加を促している。企業研究者の参加が減少してきたための対策であるが、研究の香りのしない技術発表でも許されるような年会であれば、企業参加者は減少しない。アカデミアの先生の中に速報的な内容や技術発表を軽視される方がいるのが問題である。(そもそも企業の技術者が参加しなければ損をするような研究発表がいっぱいであれば、技術者の参加が減少することはないと思われるが。)
化学会の春季年会は、学生研究者のデビューの場でもあるが、企業技術者の積極的発表も促すようにすれば、企業からの参加者も増えると思われる。技術のPR的内容でもよい、と思う。その中に科学的研究の香りが入っておれば、新しい研究のヒントが生まれる可能性だってある。かつての技術に対する排他的雰囲気が企業技術者の参加減少の一因のようにも思っている。
日本化学会春季年会で高純度SiCの発表を行った理由は、無機材質研究所で行った部分を明確にする目的があった。公的研究機関で実施された部分を早い段階でも公開するのは義務だと思ったからである。しかし散々な結果であった。
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