2013.05/23 成功する技術開発(28)
ポリエチルシリケートとフェノール樹脂を酸触媒存在下で混合すると透明な樹脂ができる。リアクティブブレンド技術なので両者の反応速度がうまく合わなければならない。このような実験では、試行錯誤で実際に組み合わせて実験を行った方が早く結果が得られる。実際に12時間程度の実験で安定に合成できる条件が見つかった。
このような実験方法はアカデミアの先生に理解されない、と思っていたら、iPS細胞発見の実験では、同様の方法でヤマナカファクターを山中先生は見いだしていた。テレビ放送では、その手順については初公開と言われていたので、研究手法として批判を浴びる、と判断され隠されていたのかもしれない。すなわちどうやって見つけたかは秘密にしておいて、iPS細胞ができることだけを示し、その先の研究を行っていても研究として成立する。見いだした方法を秘密にすることも許される。むしろ秘密にした方が権威が出るし、テレビで発表された方法では、SiCの発表を初めて日本化学会で報告したときのように、批判を浴びたと思われる。ノーベル賞受賞後であれば、一定の評価が得られたので、公開した方が世の中のためになる、と評価される。
SiC前駆体の合成に関しては、酸触媒の選択方法について当然質問が出ると思い、酸触媒の検討結果を○△×で示したが、これが批判を浴びた。しかし、批判してはいけないのである。新しい実験事実が出ているのであれば、賞賛すべきところである。学会発表は学問の純粋性を追求する場であると同時に進歩を促す場でもあるのだ。もし新発見の事実があり、その発見が今後の研究に影響を与えるのであれば、まず発見できたことを褒めるべきである。
山中博士が遺伝子を細胞に全部放り込んだ実験結果をノーベル賞受賞後まで隠されていた気持ちは、よく理解できた。30年経っても変わっていないのである。学会は研究者が切磋琢磨する場であることは認める。しかし一方で新しい研究を促進する役目もあるのである。学会賞はそのためにあるが、この学会賞も嫌な思い出がいくつかある。
新しい発見について、まずその事実を評価する議論がなぜできないのであろうか。これは企業内でも同様のことが起きるのだが、直接利益につながる話であれば、論理の厳密性はそれほどの議論にならない。学会よりも企業内の評価は健全である。ただ、企業それぞれの風土により成果に対する評価が異なる。新しい発見を促進できる風土の企業は業界トップになっている。学会同様にプレゼンテーションを重視する企業は注意した方がよい。技術開発の実験よりも書類作成に多くの時間が割かれていないか?
企業では結果をまず大切にする姿勢が重要だと思っている。以前この蘭では、まず「モノ」をつくることの重要性を指摘したが、それはゴム会社で学んだことである。「こんな書類を持ってくるよりも、実際にモノを見せてくれれば研究費を出す」と言われて、徹夜してモノを造って翌朝見せたところ、研究予算を認めてもらえた感動は今でも覚えている。(「簡単にできるならやらない方がよい」という評価をだす会社もあるようだが、それは若い研究者の情熱を理解していない会社だ。)発見プロセスやプレゼンテーションなどよりも、目の前に「モノ」が示されている重要性は、研究開発を32年間行ってきてよく理解できた。
学問の進歩も新しい事実が示されて促進される点を重視するならば、学会での議論の視点も変わると思う。まずプロセスありき、あるいはプレゼンがまず重要だ、という学会では将来が心配である。
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