2013.05/26 高分子の難燃化手法
高分子の難燃化技術については、1970年代にほぼ基礎的な考え方ができあがりその後様々な難燃剤が提案された。1980年前後には優れた教科書も元東北大村上教授らにより翻訳されている。
当時最も高分子の難燃化に有効な考え方は、高分子表面にチャーをうまく形成させる、というコンセプトで、さらに優れていると言われたのは、イントメッセント系の難燃化システムである。イントメセント系というのは、燃焼している表面にチャーの発泡層を形成する考え方で、燃焼面の研究から生まれてきたコンセプトである。
1980年に軟質ポリウレタン発泡体を研究開発していたときに、一連のコンセプトを試し、ホスファゼン変性軟質ポリウレタン発泡体を4ケ月で開発したがコストの問題があった。今は大塚化学から安価にホスファゼン誘導体を入手できるようになったが、当時はヘキサクロロシクロトリホスファゼンが、kgあたり数万円していた時代である。コストも調べないで研究開発を進めた、として始末書を書かされた。まだ入社して1年しか経っていないときである。
しかしこのホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームは、難燃化手法の新しい情報を提供してくれた。すなわち、燃焼時に極端に煤の発生が少なく、効率的にチャーを形成していると思われ、さらに燃焼後の残渣を分析すると含有されていたリンのユニットが100%近く残存していたのである。イントメッセントは形成されておらず、一般のリン酸エステル系難燃剤に類似したチャーが形成されていたが、リン原子1モルあたりのLOI増加率は一般のリン酸エステル系難燃剤の1.3-1.5倍だった。
イントメッセント系が注目され始めていた時に面白い実験結果が得られたので、始末書にめげず新しい難燃化システムを提案し、3ケ月で工場試作まで実現した。硼酸エステルとリン酸エステルの組み合わせ系のシステムで燃焼時にガラスを形成するコンセプトである。
燃焼時に市販のリン酸エステル系難燃剤ではオルソリン酸が形成され系外へ蒸発する問題を見つけ、ホスファゼンでは、燃焼時にオルソリン酸が形成されず無機高分子が生成していることに着目してアイデアが浮かんだ。イントメッセント系のアイデアとは全く異なるのである。
燃焼面を調べてみると、コンセプト通りにボロンホスフェートができており、リン酸エステル系難燃剤を用いたにもかかわらず、燃焼後の残渣にリンがホスファゼンと同様に100%残っていたのである。
すなわちイントメッセント系でなくとも高い難燃化システムを設計することができたのである。チャーの発泡層を形成することは難しいが、リンを含むユニットを系内に閉じ込めるアイデアは、他にもありただ組み合わせるだけなので材料設計は容易である。
カテゴリー : 高分子
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