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2013.05/30 科学と技術(酸化スズゾル2)

1970年代に酸化第二スズは、絶縁体であるかどうかが科学の分野で重要問題であった。そして完全に近い酸化第二スズ単結晶の合成研究が無機材研で進み、合成された酸化第二スズ単結晶の電気特性を評価したところ絶縁体であった、と言うのが結論である。

 

しかし、技術的には透明導電体としての物性に興味が持たれ、どこまでその導電性が上がるのか、また酸化第二スズ以外に透明導電体が存在するのか、という研究が今でも進められている。

 

すなわち、酸化第二スズに関する研究は科学と技術の向かう方向がまったく逆となった材料である。このような材料の科学的研究の評価は社会から得られにくく、科学的研究を続けることが難しい場合も出てくる。

 

科学的真理の追究に無駄な活動は無い、という考え方が社会に定着しているのが理想と思うが、技術開発の目標に二番ではダメなのか、という認識の大臣経験者がいる国ではこの理想から遠くなる。科学に関して日本は研究者の善意に頼らざるをえない研究環境だろう(但し劣悪な環境というわけでは無い)。

 

緊急度の低い、あるいは重要度の低い科学的真理は存在する。しかし、経済効果が0に近いからといって科学的真理の価値が下がるわけでは無い。技術開発は科学という思想で行われるために、科学的真理すべてに価値がある。ただしその価値の高さには高低があるが、それは歴史が決めることである。

 

高純度酸化第二スズ単結晶が絶縁体である、という科学的真理は、酸化第二スズがなぜ導電体になるのか、という問題を明確にする。「高純度単結晶は絶縁体である」という命題に対して、「絶縁体でないならば高純度単結晶ではない」、という対偶が成立する(注)。

 

すなわち半導体から導電体まで電気特性が変化する材料であるなら高純度単結晶ではない、という仮説を立てることができる。この仮説について、高純度結晶で酸素欠陥が存在する場合、あるいは結晶で不純物が存在する場合についてその導電性を科学的に証明され、アンチモンドープあるいはインジウムドープされた材料の技術的使いこなしや品質管理技術が発展した。

 

しかし、単結晶ではない非晶質の場合にどうなるかの科学的解答はまだ出ていない。

 

<明日に続く>

 

(注)対偶どおしは真であるので、もとの命題を考えにくいとき、あるいは新たなアイデアを考えるために視点を変えたいときには対偶を考えると良い。科学的論理学では、等価と言われている。

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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