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2013.06/03 科学と技術(酸化スズゾル4)

特公昭35-6616に記載された実施例には酸化スズゾルの詳細な製造条件が書かれていない。四塩化スズを加水分解して得られた沈殿をデカンテーションの繰り返しで精製し高純度酸化スズゾルを得る。これをアンモニア水に分散すると、安定な高純度酸化スズのコロイド水溶液ができるのだが、四塩化スズの細かい加水分解条件やデカンテーションの回数等が実施例に記載されていない。

 

デカンテーションの回数については副成する塩素が残らない条件なので10回以上であることが計算から容易に推定がつく。しかし、加水分解温度について詳しく記載されていないのは不思議に思った。四塩化スズと水の混合物が得られてから煮沸するので、100℃までであれば、四塩化スズの添加温度など気にする必要がないようにも思われる。また四塩化スズを液体の状態で添加するのか、あるいは水和物の固体で添加すのかについてはどちらでも良いような中途半端な書き方である。

 

ところが実験をやってみて分かったことだが、発明者はこの加水分解温度の重要性に気がついており、わざと丁寧に記載しなかった可能性があると推定した。

 

タグチメソッドで実験を行うと、この添加温度の因子が感度とSN比に大きく影響する。困ったことに感度を高める条件ではSN比が低下し、SN比の最大をとると、感度は中程度となるのである。

 

最適条件の選択では、田口玄一先生と喧々諤々の議論を行った。田口先生はあくまでSN比を優先すべきだ、というお立場で、当方はSN比中間で感度もそこそこの良さそうなところを、という立場である。何のために動特性で実験を行ったのか、という雷が落ちる。当方は実験を行った感触から、SN比最大で無くとも生産安定化ができる、と予想した。

 

ちなみに非晶質酸化スズの体積固有抵抗は、この時の実験結果で500Ωcmから100000Ωcmまで約200倍以上変動している。タグチメソッドの動特性の実験として典型的な結果が得られる実験系である。SN比と感度の議論では、田口先生が正しい判断をされていることは理解できていても、ものすごい結果を目の当たりにした生徒の立場では未練が残る。ただ、田口先生の一言「科学の研究をやっているのではない、技術開発をやっているのだ。」に、すなおに「はい、分かりました」と納得して答えた。偉い先生である。

 

<明日に続く>

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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