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2013.06/10 科学と技術(タグチメソッド5(難燃化技術の基本機能))

高分子の難燃化技術について、炭化型システムでは、極限酸素指数(LOI)の増加率は基本機能だろう。溶融型システムでは基本機能とならない場合も出てくる。高分子の難燃化技術で基本機能を考えるときに難しい点である。基本機能を難燃化技術に直接関わらないところで考えることも可能であるが、ここでは炭化型システムでLOIの増加率を基本機能とした場合を考えてみる。

 

難燃化成分を横軸に取り、LOIを縦軸に取ると、難燃剤の場合、LOIが21前後まで一次線形の関係が得られる。LOIの増加率が高い系は、炭化型システムにおいて難燃性が高い傾向にある。また、難燃成分の中には、LOIが20で上限となり、その成分を増加させてもLOIが上昇しない場合もあるが、一応LOIの増加率を求めることができる。

 

ところがリン原子は、どのような高分子についてもLOIが22程度まで一次線形で正の相関係数をとる。リン系の難燃剤で難燃性の高い高分子材料を設計したいときには、信号因子としてリン原子の濃度を取り、LOIとの関係式からSN比を求める。このSN比を用いて他の制御因子について直交表を使い探す。

 

制御因子として何を考えるのか。予備実験から効果的な制御因子が分かっている場合は苦労しないが、全く分かっていない場合に、いきなり大きな直交表を用いた実験を行わない方が良い。L18が適当な大きさである。直交実験に慣れていれば、L8やL9という小さな直交表を使うのも良いが、L8やL9を二回行うくらいならば、L18を使用すべきである。

 

技術ができあがっていると制御因子のおおよその挙動は見えているが、技術が全くできあがっていない段階であると制御因子と思っていた因子がそうではなかったケースも経験している。一因子実験では制御因子のように見えても直交表を使用した実験では、効果が見られないことがある。これは実験を失敗したのではなく、タグチメソッドのメリットであり、実験者の誤解がその実験からあきらかになったのである。

 

直交表を用いたタグチメソッドの実験の良いところは、基本機能のSN比を“本当に上げることができる”制御因子を素早く見つけられることである。これは一因子実験をくり返して行い求めることもできるが、効率が異なる。但し、L18実験をすべて完了しなければその結果が得られないのがつらいところである。タグチメソッドを嫌う人の多くがこの点を指摘するが、実験計画をうまく組めば多くの場合1週間以内に結果が揃うので、タグチメソッドの欠点ではない。

 

ここまでリン系の難燃化システムの例で説明したが、他の難燃化システムでも同様である。例えば、ガラス生成の難燃化システムでは、ガラス成分とLOIの関係を直交表の外側に割り付ける。

 

ところで、難燃化技術では、燃焼速度の変化率が基本機能だ、という人もいる。もし自分たちの難燃化技術の哲学が燃焼速度を遅くする技術こそ大切である、と言うのであればそれでも良いのである。田口先生は基本機能を決めるのは技術者の責任だ、と言われた。タグチメソッドの責任では無いのである。何から何まで機械的に決めてくれないので、このあたりがタグチメソッドを難しくする原因になっている。あくまでもタグチメソッドは“メソッド“なのであるが、哲学的側面もある。基本機能は技術者がシステムを設計するときに自己責任で決めなければいけないコンセプトでもある。

<明日へ続く>

カテゴリー : 一般 高分子

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