2013.06/21 科学と技術(混練4)
液状の高分子の混合では、高速剪断が活用されている。この事が教科書に詳しく書かれていない。教科書に書かれている混練と言えば室温で固形あるいは高粘度の高分子が対象である。ゆえに35年前のゴム協会誌に剪断流動で混練後の構造はミクロンオーダーよりも小さくならない、と実験データとともに記述されていても誰も疑問としなかったのだろう。
ゴム会社に入社2年後、ポリウレタンエラストマー発泡体(PU発泡体)の研究開発を担当した。PU発泡体は、スラブフォームとRIMの2種類扱ったが、生産機のミキシングヘッドは両者ともに高速剪断装置であり、これを用いてミクロンオーダーよりも小さい高次構造を形成できた。
ミキシングヘッド内の高分子の滞留時間は2秒以下で、瞬時に混合分散が進んでいることになる。当時ヘッド内の設計は現場のノウハウであり写真撮影が禁止されていた。ゆえにプレゼンテーションでは毛虫のような図で代用していた。何も知らない人には毛虫に見えたのかもしれない。毛虫はエンペラーと呼ばれており、毛虫の皇帝か、という冗談が受けた。
毛虫が高速回転するそのミキシングヘッド内では分子レベルの混合が、たった2秒間で行われている。エンペラーの構造から剪断流動が発生していると推定され、剪断流動でも分子レベルの混合ができることを示していた。
ホスファゼン変性PU発泡体では、ホスファゼンをTDIとのプレポリマーにして添加した場合と、低分子固形物で添加した場合で試作を行ったが、前者の難燃性能が20%程度高かった。力学物性から、前者は可塑剤として作用していることが推定され、分子レベルで分散している様子が推定された。また、電子顕微鏡写真の比較でも、後者ではホスファゼン超微粒子が観察されたが、前者では単相を示していた。
たった2秒間の混合で分子レベルの混合を達成できる高速剪断装置の混練効率は極めて高い。なおミキシングヘッドは運転中に外装を触れても12月の試作にかかわらずひんやりするほど冷却されていた。
そのほか溶媒を用いない高分子の混合の例ではシリコーンLIMSがあり、スタチックミキサーが使用されるが、これも剪断流動で混練を行っている。すでに述べたように剪断流動では混練後の高次構造のサイズが剪断速度に影響を受ける。スタチックミキサーを使用するときに注意しなければいけないのは充分な剪断速度が発生しているかどうか、という問題である。
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