2013.06/26 科学と技術(混練9)
最初の1ケ月間、樹脂補強ゴムの開発は、ゴミを混練してる様な仕事だった。シミュレーション結果とはほど遠く、単純な引張試験のデータも実用にならない結果ばかりだった。一年後に得られるであろうデータを一ヶ月程度で出してやろうと目論んでいたが、月報も書けない状態である。すなわち、ゴムへ樹脂を30部配合してうまく樹脂が海で、ゴムが島になる構造をとる組み合わせを探していたのだが引張試験のデータ以外に大きな変化は見られなかった。
引張試験の結果には、樹脂を混ぜても強度があまり低下しない系が幾つか存在した。いずれもSP値が近い組み合わせで、周囲の専門家の意見では当たり前の結果であった。実験を始めて1ケ月半過ぎた頃少し弾性率が高いゴムが得られた。弾性率が高く、損失係数も高いゴムが目標だが、そのゴムの損失係数はゴムのそれとあまり変わらなかった。
メンターの方針では30部程度でスクリーニングを行い、シミュレーション通りの結果が得られたら樹脂の添加量を変動させる実験に移る予定だったが、その少し高い弾性率を示した組み合わせについて、添加量を振ってみたところ、40部でシミュレーションどおりの物性のゴムとなった。
30部と40部で細かく3点ほどデータを取ってみたところ、35部もシミュレーション通りのデータとなった。このシステムに用いた樹脂とよく似た構造の樹脂を1ケ月前に検討していたが、それについても40部でデータ見直しを行ったところ、弾性率はやや低いがシミュレーションに近い傾向を示していた。
1ケ月間ゴミを混練しているような実験であったが、スクリーニング段階の添加量の設定が悪かったのではないかと、これまで実験したデータについて40部で再度全ての組み合わせを見直した。するともう2組みシミュレーションに近い傾向を示す組み合わせを見つけた。気がついたら、毎日夜中の12時まで実験を1週間続けていた。
メンターにこの結果を報告したら、40部は樹脂の添加量として多すぎないか、といわれた。30部程度でもうしばらくスクリーニングしてみようということになったが、実験は30部、35部、40部と3水準でこっそりと進めた。実験量が3倍に増えたので、サービス残業を毎日夜中の12時まで行った。東京に出てきたばかりで毎日独身寮と会社の往復である。同期の誘惑さえ断れば時間は無尽蔵にあった。自己啓発の時間を削れば一日に2日分の仕事をこなせる恵まれた状況だった。
面白いことに35部の添加量で、シミュレーションと近い傾向の組み合わせシステムがさらに4組見つかった。スクリーニングを予定していた樹脂の評価をすべて終えたのでデータを整理してみたら、35部の添加量であるパラメータが樹脂の結晶化度と相関するデータが得られた。結晶化度の高い樹脂は混練しにくいと言う理由で除外していたが、結晶化度の高い樹脂についても少し検討したところ、2組みシミュレーションと同じ結果となり、驚くべき事に1組は30部でも弾性率が高く損失係数も高いゴムとなっていた
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