活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2013.07/08 科学と技術(静電気4)

高分子材料の力学物性についてはゴム会社で勉強した。半導体用高純度SiCを開発したときに、ヒーターの開発なども行ったので電気物性について力学物性と同様勉強していた。しかし、それは無機材料の電気物性である。無機材料では科学的に見えた電気物性の論文と同じような論理で書かれた論文が、高分子材料を対象とした内容であるとなぜか科学的に怪しく見える。

 

フィルムの誘電率について低周波数領域で異常分散が現れる現象は、すでに報告されていた。高分子の一次構造や不純物により生成するエレクトレットとの関係で論じられていた。どれも仮説としては正しいが、科学的に厳密な説明の成された論文は少ない。

 

中には抵抗とコンデンサーの組み合わせモデルで説明している論文もある。データをマクロ的に把握するには良いだろうが科学的ではない。これらの研究の中には、科学的な厳密さにこだわって、実験の切り口を工夫した優れた論文もあった。科学的だろうが非科学的だろうが、技術開発を行うときにどれも参考になる。

 

しかし、フィルムで発生した静電気と、ゴミの付着し始める距離について、交流を用いた評価結果との関係で論じた論文は存在しなかった。「驚くべき結果」が得られたので、特許出願を行ったが、同じ時期にドイツで同様の発明が成されていたことに驚いた。

 

インピーダンスの絶対値とゴミの付着距離との高い相関関係を科学的に厳密に説明することは難しい。しかし、この現象を技術の発明に生かすために、モデル実験を行った。

 

仮説は、抵抗(R)の性質を示す成分が増加するとインピーダンスに影響が出る、すなわちRの成分のクラスターが増加すると低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値が増加する、という内容である。この仮説をn個のRと(n-k)個のコンデンサーの接続モデルを用いて数値シミュレーション(注)を行うと、計測結果と同様の低周波数領域で異常分散を示す結果が得られる。

 

酸化スズゾルを分散した薄膜をPETやTAC、PENに塗布して実験を行ったところ、数値シミュレーションと同様の結果が得られただけでなく、パーコレーション転移の検出にインピーダンスの絶対値を用いると検出力の高い評価方法ができることが分かった。

 

低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値がR成分のクラスターのでき方に大きく影響を受けること、そしてそれがパーコレーション転移の検出方法に使用できることなどは、科学的論理で説明がつくが、それが静電気の現象とどのようにつながるのかは、技術者の心眼に見えても科学的に不明のままだ。

 

(注)本件は福井大学客員教授時代に青木幸一教授と共同で行った研究で、カナダで開催された国際写真学会で報告した。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

pagetop