2013.07/21 科学と技術(リアクティブブレンド9)
リアクティブブレンド技術は、ポリウレタン発泡体やフェノール樹脂発泡体の技術開発で体得した。ポリウレタンRIMはじめリアクティブブレンド技術を長年研究開発してきたグループに所属できたのが幸運であった。寝具用ポリウレタン、建築資材など商品開発の実績のあるグループだったが、無機材質研究所の留学から戻ったときには解散していた。技術を指導してくださった美人のメンターも他部署へ異動していた。
研究所にリアクティブブレンド技術はじめ界面活性剤の技術を知っている人は誰もいなくなった。このような技術は知識だけでは伝承できない。前駆体ポリマーについて300種以上の配合実験を知識だけで取り組んだなら、途中であきらめるか、適当に間引いた実験で失敗するかいずれかだったと思う。
パイロットプラント稼働後早すぎた技術開発のため市場が無く、プロジェクトグループは縮小され、住友金属工業とのJVが立ち上がるまでの6年間一人で高純度SiCの仕事を担当することになったが、セラミックスヒーター、切削チップ、高純度るつぼなど商品になりそうな製品の品揃えがテーマとなった。その時電気粘性流体のテーマを手伝うことになった。当初は、アイデアだけ出してくれれば良いと言うので、アイデアだけを提供していたがどれもうまくいかない。
ヘボなアイデアを提供していない自信があったので、提案したアイデアを自分でやってみたところどれもこれもうまくいった。アイデアは間違っていなかったのである。技術内容については以前この欄でも紹介したので詳細は省略するが、このことは言葉だけで技術をうまく伝承できないことを表していると思う。
界面活性剤にしてもHLB値を頼りに検討を行っただけでうまくいかないアイデアという結論が出されていた。粉体の合成実験にしても反応をうまく制御できず、だめなアイデアとの判断が出されていた。なぜ成功するまで実験を行わないのか、理由は簡単である。成功した時の状態を思い描けないからである。図に書いて説明しても科学的ではなくそんなうまく行くはずがないと、まず批判が先に出てくる。しかし、科学的ではないが技術的に正しい表現をしている、それを共有しようと質問者が入ってこないのでうまく伝わらないのだ。
科学は否定証明を得意とする、とはイムレラカトシュの言葉だが、うまく進めるための筋道を考えるよりも否定する方が易しいのである。技術の存在を認めようとしない姿勢がそこから生まれる。
これをコミュニケーションスキルの問題としてかたづけるのは簡単である。しかし技術の伝承は、単なるコミュニケーションスキルだけではうまくいかない。機能実現の行為をどのように実行するのかという言語にできないノウハウをうまく伝える技術と、受け手にはそれを受け止める心構えなり環境が必要である。コミュニケーションスキルの問題は、伝える側の責任として片付けることができるが、技術の伝承は伝える側の責任だけで片付かない。
リアクティブブレンドだからできて当たり前、という言葉はメンターの印象的な一言である。この一言は、メンターの自信に裏付けられた実験動作と重なると単なる軽薄な一言ではなくなる。高速剪断で均一に分散されること、反応の進行がその気になれば化学分析などしなくとも目視でも分かることなどの暗黙知が、伝承を受け止めようとする姿勢とそれにふさわしい環境で伝えられたのである。
技術の伝承のために設備が整っている必要はない。受け手が技術の臨場感を共有できる心の準備と環境が技術の伝承には重要である。それを何とかできないかと考え、弊社の問題解決法としてまとめた。弊社の問題解決法で展開している手順は、科学的ではない。しかし、技術開発報告書と一緒にこの問題解決法で使用したツールを添付して後世に伝えれば臨場感を伝えられる工夫をしている。
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