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2013.08/14 科学と技術(22)

SiC基切削チップの処方設計をどのように行ったのか、上司に質問された。すでにテーマは終わっていたのだが、ゴムが専門であった上司もセラミックスの文献を幾つか読み勉強をされたらしい。幾つかの相図を机の上にならべ、どのように考えたのか説明して欲しい、と言うのである。すべての相図が揃っているわけではないので、説明できない、と回答したら、処方を発想した方法を教えて欲しい、と言われた。難しい仕事でも何とかこの上司のためにやり遂げたい、と思うことができる真摯な上司であり、新入社員時代のメンター同様尊敬している上司の一人である。ゴム会社では優れた先輩に恵まれた。

 

それなら簡単、とばかりに説明した。すなわち当時すでに考案し活用していた弊社の問題解決法で解決した手順を示した。SiCで鋳鉄を研削するためにはフェロシリコンをできにくくすればよいこと、チップの組織構造を細かくすればよいことなどゴールが実現されたときのあるべき姿を説明した。そしてそのあるべき姿を実現するために、この組成が必要だった、と言いかけたときに、なぜ、そのあるべき姿を実現できると思ったのか、と尋ねられた。

 

当時SiCのホットプレスに関しては論文がたくさんあり、助剤を選べば、粒成長を抑制し組織の細かい焼結体が得られることは知られていた。TiCに関しても同様に研究例は多いほうであった。サーメットに関しても情報は多かった。しかし、複合カーバイドに関する研究例は少なく、何が起きるか分からないが、存在する周辺情報から特定の組成で細かい組織構造のセラミックスができる可能性が読み取れた、と説明した。仮説とまでは言えないが、公開された論文を整理し、想像を働かせれば細かい組織構造になる組成を見つけることはできる。

 

さらにその想像は、当時無機材質研究所で提唱された焼結の自由エネルギー理論に基づいて行えば容易であった。早い話が、難しいことは考えず、安定な相が優先してできるであろう、ぐらいの考え方である。実験結果は1個のサンプルしか得られなかったことから、この考え方だけでは問題がすべて解決できていないことを痛感し反省したが、一方で自然現象は熱力学的に決められた方向へ進む確率が高いので想像通りの材料が一つでもできたのは熱力学的な見積もりが間違っていなかった、と考え方に自信を持った。

 

これがキンガリーの教科書に書かれていた従来の焼結理論ならば液相の相図を組み合わせて考察しなければならないので難しい話になる。焼結理論は、当時日本セラミックス協会誌においても議論が展開されていたホットな話題であった。議論を読む限り自由エネルギー理論のほうが自然であった。

 

上司は一言、無機材質研究所に留学できて良かったですね、と言われた。上司はまじめな方だったので、科学と技術について議論をしたかったのだろう。科学的情報や知識に基づき技術開発を行う、という姿勢は基本として大切である。しかし、科学的情報が無いときにどのように技術開発を行えば良いのか、それは科学的研究を進めながら技術開発を行う、という答が一般的であり、そのように指導された。しかしそれでは科学的研究が律速段階となり、技術開発の速度を早めることはできない。山中博士は科学的ではない方法でイノベーションを起こすという一つの例を公開してくれた。彼は仮説を基に技術的に解を見つけてから科学的研究を進めた。科学的研究の重要性は認めつつ技術開発についてスピードアップとイノベーションの効率の視点から見直す必要がある。

 

(技術開発の速度を早める方法をまとめたのが弊社の問題解決法である。)

カテゴリー : 一般

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