2013.08/27 科学と技術(35:高分子の難燃化技術)
ゴム会社に入って2年目1980年に軟質ポリウレタンの難燃化技術を担当した。難燃化技術には炭化促進型と溶融型がある、と最初に指導された。後者の技術には胡散臭さを感じた。溶融型と同様のコンセプトとして変形して炎から逃げる技術で成功した話を聞かされたからだ。
実験してわかったことだが、溶融型で高分子を難燃化するとLOIは21を越えなくても各種試験を通過する。一方餅のように膨らみ変形する硬質ポリウレタンフォームは、難燃2級の試験だけパスして、他の評価試験にはいくつかパスしない。ASTMの試験ではうまく炎から逃げ切るように変形すると規格に通過できるが、逃げ切れなかったときには燃焼して燃え尽きる。すなわち10サンプル試験を行うと半分は通過しないサンプルとなり不合格となる。
溶融型ではLOIの値は低いが、建築材料以外の用途に要求されるあらゆる試験に通過するので、変形して炎を逃げるタイプの難燃化技術と少し異なる。また、実際に寝具を組み立ててみて、寝たばこと同様の状況で実験を行ってみても火が消えるのである。溶融型はLOIが低くても難燃化技術として使用できそうである。
しかし、高い難燃効果を高分子材料に付加するならば炭化促進型である。普及し始めたUL試験を行ってみると溶融型は最も下位ランクの試験にしか合格しない。V0試験ではドリップそのものがあってはならないので溶融型では合格しない。
難燃性軟質ポリウレタンフォームの開発を行いながら難燃性評価試験を幾つか検討し、難燃化技術を科学的に行うにはどのように研究を進めたら良いのか悩んだ。コーンカロリメータがまだ無かった時代で、LOIの普及が始まったばかりの時である。
LOIは、酸素濃度の値を指数で表す評価試験方法で、空気中で燃えるか燃えないかという科学的な判断には使用できそうに見える。しかし、溶融型についてはLOIとは無関係に自己消化性を示すのである。すなわち高分子材料に実際に火がついてもその火が消えるのである。炭化促進型では、LOIが21を越えない限り自己消火性にならない。
炭化促進型は空気中で燃えにくい=空気の酸素濃度においては自己消火性となる、という感覚的なズレが存在しないが、溶融型では空気中で燃えやすく燃えることにより溶融し自己消火性となっているので不安が残る。しかし、難燃剤を用いなくとも高分子の分子設計だけで各種難燃化規格を通過できるのでコストパフォーマンスは良い。アカデミアの研究者の意見を聞いても初期消火に効果がある難燃化システムという評価である。
高分子材料は実火災においては燃えてしまうので初期消火に効果がある難燃化システムでも意味がある、と当時言われていた。また普及し始めたUL規格も用途に応じた難燃グレードの試験方法を提供しており、溶融型による難燃化システムを認める規格になっている。
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