2013.08/29 科学と技術(37:高分子の難燃化技術)
UL94燃焼試験とコーンカロリメータによる燃焼試験では燃焼を継続するための熱源の観点で違いが出る。すなわちUL94燃焼試験では燃焼による自己発熱で燃焼が継続するが、コーンカロリメータでは輻射熱の影響もこれに加わる。
その結果、前者では高分子の熱分解は燃焼抑制効果として働き、気相で機能する難燃剤が大いに効果を発揮するが、後者では気相において機能する難燃剤の効果が小さくなる。両者の評価法で共通して難燃化の機能が有効に働くのはチャー生成を促進する炭化促進型の難燃化システムである。
ここまでは高分子の難燃化を研究している科学者や技術者は共通認識として持っているが、それでは効果的に働く難燃剤は、という問題になってくると意見が分かれる。高分子の難燃化技術の真の姿は未だ科学的に明らかになっていない。
30年以上前に燃焼時にガラスを生成して難燃化するシステムを開発し、短期間であるが商品を市場に出した。ホウ酸を使用するシステムだったので環境への影響(排水の問題)を配慮しシステムは使用されなくなったが、その代わりに使用されたのは縮合リン酸エステルである。コストと難燃化性能のバランスが良い大八化学(株)のヒット商品である。
ガラスを生成して難燃化するアイデアの基になったのはホスファゼン誘導体である。当時ホスファゼン誘導体はとんでもない値段だったので自分で合成したが、今は大塚化学(株)が安価に提供している。大塚化学(株)は30年以上ホスファゼン科学を研究しているこの分野の老舗である。
縮合リン酸エステル系難燃剤よりもホスファゼン誘導体のほうが難燃性能は高い。リンの含有率が高いためであるが、リン1モルあたりで比較してもホスファゼン誘導体の性能の高さを実感できる。但し、この比較では分散状態の影響を受けるので注意深い実験が必要となる。分散状態によってはホスファゼン誘導体の効果が見えなくなることもあるのだ。その結果技術者や研究者によりホスファゼン誘導体の難燃性能の高さに対する見解は分かれる。
ホスファゼン誘導体が高い難燃性能を示す理由は、燃焼時にリンを含む分解物が気相へほとんど揮発しないからだ。縮合リン酸エステルの場合は、構造の違いはあるがほとんどの化合物で気相への揮発が観察される。おそらくオルソリン酸の形態で揮発していると思われる。
UL94燃焼試験ではホスファゼン誘導体も縮合リン酸エステルも、リンの含有率を揃えてやると評価結果に大きな差異が見られなかったが、コーンカロリメータによる燃焼試験では、その性能に差が現れるものと思われる。すなわち最初に述べたように難燃性評価法に高分子の難燃化機構が影響するためである
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