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2013.08/30 科学と技術(38)

高分子の難燃化技術は、科学として未完成であるが、技術としては出そろった状況ではないか。ただしこの感覚について研究者間で意見が分かれる。

 

高分子材料の大半は、むき出しであれば実火災で燃えてしまう材料である。それを前提に考えれば現在特許出願されているアイデアよりも新しいコンセプトの発明が提案されない限り、難燃化技術として出そろった、とまず捉え、個別のケースにこれまで開発された手法を適用しながら新たな問題に対応した方が賢明である。現在の難燃化技術では、難燃化の機能を実現しようとするとコストはじめ物性など他の機能に影響が出る。

 

実はこの10年間高分子材料の難燃化について新しい技術コンセプトの提案は無い。ただし新しい研究報告は存在する。ただその研究報告は従来の難燃化技術に関して考え方を補強した内容であり、新たなコンセプトの提案ではない。

 

30年前のインツメッセント系やその後の臭素系難燃剤のブーム以上の大きなイノベーションは、この10年間に起きていない。ノンハロゲンは、環境意識の高まりとBAなどの規制からキーワードとして重要だが、30年以上前にホスファゼンによる方法や無機高分子を生成する組み合わせシステムによる難燃化手法などの提案があり、すでにノンハロゲンの取り組みは一部で行われ成功例が存在する古い概念である。

 

三酸化アンチモンとハロゲンの組み合わせは最も高い難燃効果が得られるシステムとして知られているが、過去の技術の中には、特定の系と用途でそれを凌ぐシステムも存在している。おもしろいのはそうしたシステムが公知になっていても目の前の材料を難燃化しようとするときにうまく技術を使いこなせないという現実がある。

 

コストの問題や設備の問題だけでなく、技術者のスキルの問題も関係している。科学の研究論文ではそのまま実施すれば再現よく論文の結果を確認できるが、特許の場合には実施例を実施例通り実験しても再現できないケースがある。

 

例えば、難燃化技術ではないが、特公昭35-6616の酸化スズゾルを用いた帯電防止層の発明では、パーコレーション転移の制御技術を用いない限り、実施例を再現できない。難燃化技術の中にもこのような特許が存在している。超微粒子を用いるナノテクノロジーの難燃化技術では分散が技術の効果を左右するのでパーコレーション転移と同様の技術再現の難しさが存在する。

 

難燃化技術は、帯電防止技術と同様に科学と技術の違いを学ぶ対象として適している。30年前ホウ酸エステルとリン酸エステルの組み合わせ系難燃化システムを学会発表したときに、何をやっているのか分からない、というアカデミアの評価を頂いた。

 

加水分解しやすいホウ酸エステルを加水分解しにくい構造で分子設計した工夫や、組み合わせ効果を示すDTG、燃焼面に生成したチャー並びにホウ酸エステルとリン酸エステルが反応して生成したボロンホスフェートのIRなどをデータとして示したが厳しい評価を頂いた。論文を書いてもムダと思い、論文発表をしなかった。今から思えばアカデミアの研究者が難燃化技術を理解していないだけだったのだが、若い時だったので心ない質問に自信を無くした。

 

その後類似の技術が登場するのをみて、パイオニアとしての自信を回復するのだが、若い技術者へのアドバイスとして、良い技術を学会発表する時にはしかるべきサポーターがいるところで行う方法を提案したい。今でも年会で心ない質問が飛び出す場合があり、そのような場面に遭遇したときには、アカデミアの質問者へ注意するように心がけている。

カテゴリー : 一般 高分子

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