2013.08/31 科学と技術(39)
特許に記載された実施例を実験してもうまく再現できない場合には、その特許がインチキかあるいは特許に記載されていないノウハウの存在を疑うべきである。特許には権利書としての側面があり、ひどい特許も存在するが、公告特許になっている実施例に関して再現できない場合にはノウハウの存在を疑った方がよい。
特許は科学の論文と異なるので怪しい実施例も存在するが、公告特許でその権利が維持されている場合には、実用化されている技術の可能性が高く、信憑性は高い。しかしそれでも実施例の機能を再現できない場合にはその実施例に書かれていない隠れた重要な技術が存在すると思われる。
パーコレーション転移が関わる技術や高分子の難燃化技術では、多数のノウハウが組み合わせられ技術として完成している場合が多い。これらの技術では混合分散技術が不可欠で、それが特許の実施例には詳細に書かれていない場合が多い。そのため「物質を混ぜる」という基本技術のレベルが低い場合には、まずそれらの技術の底上げをしない限り、ライバル技術の確認を正しくできない。
特公昭35-6616は写真会社の特許で、その特許が書かれたときには高い分散技術が存在したのだが、30年以上経ったときにそのプロセシング技術が無くなり、自社の発明でありながらうまくその実施例を再現できない、という状況になっていた。おもしろいのはそのような状況になっていても技術が低下している、という自覚が担当者に無かったことだ。実施例を再現できない理由は“特許がおかしい”と説明していた。
パーコレーションの科学を解説するとともに実際に実験をして見せた。フィルムの表面処理など初めての経験だが、バーコーターの使用方法を教えてもらい隠れて練習した成果がその時うまく出た。実施例に近い値を出すことができたのだ。しかし実施例と同じ値ではないので半信半疑で担当者はフィルムを見ている。今度は添加順序を変更し、予めチェックしておいた温度管理を行って塗布をしてみた。実施例と同じ結果になった。
ようやく“すごい”という言葉を担当者から聞くことができた。パーコレーション転移という現象を知っているかどうかが実施例を再現するときに重要になる。
しかし、特公昭35-6616が発明されたときにパーコレーション転移の科学など未知の世界で、混合則が議論されている時代だった。おそらくノウハウが多数あり、分散を制御すれば抵抗が下がるという現象が当時の技術者には分かっていたのだろう。1991年に転職したとき、技術のノウハウなど持ち合わせていなかったが、当時よりも進歩した科学的知識で30年以上前の技術を復活することができた。
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