2013.09/07 科学と技術(46:アイデアを出すコツ4)
フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのリアクティブブレンドで均一な前駆体を合成するアイデアを力づくで実現した。できるかどうかわからない材料は、科学的に否定されない限り、できると思ってチャレンジすべきである。そしてあきらめないことである。
仮に科学的に否定されるような仮説でも、その否定の根拠となる理論が怪しければ、やはりチャレンジすべきである。例えばχが大きい高分子は相溶しない、だからコパチビライザーが必要だ、という考え方はフローリーハギンズ理論からきている。しかし、これは学生時代から少し怪しいと感じていた。単なる一つの考え方を示したに過ぎない、とも思っていた。
多数のヒモを丸めて床に落としてみても教科書に書かれているような状態に決してならない。面白いのは太い紐と細い紐をぐちゃぐちゃに丸めて床に落とすと太い糸に細い糸が絡みついた状態で塊になる。このマクロで観察した現象と分子レベルで起きる現象も同じようだ、と考えることに今は躊躇するが、若い時には教科書の絵との狭間で悶々としていた。亀井勝一郎の「若者はストイックであれ」という言葉が妙に理解できる状態である。このようなときにもアイデアは出る。
ゴム会社に入ったときに出会った指導社員は欲求不満の解消法をいろいろと指導してくれた。リアクティブブレンドやカオス混合も教えてくださったが、レオロジーが専門のその人はダッシュポットとバネのモデルの限界に厭世観を持っていた。そして技術に対する欲求不満には未来を開く力があり、それがいかに健全かを話してくれた。厭世観からはアイデアが生まれないが欲求不満からは爆発的にアイデアが出る、だから青年はストイックでなければならないと指導してくれた。どこかで聞いたような言葉や仮説の確認ではなく欲求不満を解消するために実験を行う、という考え方は独特であったがその後の人生に役だった。やってみなければ分からない現象は、どんどん実験で確認することが大切である。
高純度βSiCの前駆体合成実験以外に、この精神で実施したいくつか成功体験がある。実用化はされなかったが光学用ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂のコンパチビライザーを用いない相溶実験がある。ある合成条件で重合したポリスチレン樹脂が光学用ポリオレフィン樹脂に相溶し透明な樹脂が得られたのだ。若い時の欲求不満がこの実験で解消された。
今度はフローリーハギンズ理論をどのように理解すれば良いのか、という新たな悩みが生まれ、指導社員から聞いた伝説のカオス混合で相溶を進める実験をしたいという新たな欲求が生まれた。欲求不満のまま5年が過ぎて、PPSと6ナイロンの系を相溶化剤無しで相溶させなければいけない、という状況のテーマと遭遇した。開発ステージが進み処方変更ができずテーマを中止をするのかそのまま進めるのか判断をしなければいけない役割であった。迷わず単身赴任を決断しテーマをカオス混合で成功させた。KKD+欲求不満から出てきたアイデアの賜物である。
科学がこれだけ発展していても、世の中にはやってみなければ解らない現象が多い。目の前にそのような仕事が現れたら迷わず汗をかいてみることである。現象をよく観察していると、どのような凡才でもそこからアイデアが生まれる。ところが、やってみなければ解らない現象でも、解っているかのように説明してくれる優秀で親切な人がいる。しかし心を空にして聞いていると、その説明では大なり小なり欲求不満が生まれる。この欲求不満を大切にするのである。70歳まで働かなければいけない時代である。すぐに解決できなくても長い人生どこかでそれを解消できる場面に出くわす。求めていた現象に遭遇したときに新しいアイデアが生まれる。
頭の良い人は仮説を立てて、と言われるが、欲求不満というものは、凡人が問題意識の芽生えで味わう仮説のタネのようなものである。コーチングでうまい刺激を与えるとそこから芽が出る可能性が高い。弊社の問題解決法はそこに着目している。弊社の方法で若者の欲求不満を解消できる。
pagetop