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2013.09/27 電気粘性流体開発で技術について考えたこと

電気粘性流体用傾斜組成粒子の開発では、その分野の科学情報に一切触れること無く、当時世界最高の応答性と電気粘性効果を有する電気粘性流体用粒子を創り出すことができた。また電気粘性流体の增粘問題では科学情報だけでなく、そもそも電気粘性流体とは何かについて社外に公開される情報程度の知識以外は提供してもらえなかったにも関わらず技術で問題解決できた。

 

同じ会社の中でこのような状態で良いのか、というマネジメント上の問題はここでは議論をしない。たまたまおかしな研究開発マネジメントの状況で科学情報が無くとも技術を創ることができた貴重な体験で、当時技術について考えたことをまとめる。

 

電気粘性流体を3年以上研究開発していて何故各種問題を解決できなかったか、という疑問がでてきたが、增粘の問題を解決した後や傾斜組成の粒子を創り出したときにプロジェクトリーダーから褒められたのではなく責められたので問題解決できなかった原因を理解できた。

 

すなわちプロジェクトリーダーは電気粘性流体の研究情報を隠し持っているのではないか、という疑いをもち、傾斜組成の粉体を開発できたときにすぐに情報開示を求めてきた。電気粘性流体の論文情報など全く持っていなかったのだが、実験のお手伝いをすればどのような機能が必要なのかは技術者であれば誰でも分かる、と回答した。しかし、必要な機能が分かってもメカニズムが解明されなければ問題解決できないはずである、というのがプロジェクトリーダーから返ってきた言葉であり、これは典型的な科学の思想である。

 

機能を実現するために試行錯誤を行っただけだ、と技術の姿を答えてもその方法論を否定されるだけであった。科学と技術について哲学的議論を行いお互いの考え方の溝を埋めるべきであったが、上下関係でこのような議論は難しくなる。

 

確かに科学的にメカニズム解析に成功したならば、その機能実現のためのヒントは得られるかもしれない。だから仮説を持って科学的に仕事を進めることの重要性が20世紀に言われ続けてきた。しかしメカニズムが分からなくとも、経験を活用してモノを創り機能をテストしながらその実現を試みる、というアプローチも科学的ではないが有効な手段である。電気粘性流体の粒子よりも優れた成果であるヤマナカファクターもそのような方法で見つかっている。iPS細胞の生成機構など分からなくても消去法で4組の遺伝子を実験を担当した学生が決定しているのだ。その実験を認めている山中博士は並の科学者ではない、ノーベル賞が本当に似合う研究者だ。

 

科学では「なぜ」という問いを発し思考を深めてゆくが、技術では「どのように」という問いでそれを行う点が異なる。この問いの違いで頭に浮かぶアイデアや現象を前にしたときの取るべきアクションが変わる。科学では「なぜ」の繰り返しで真理に迫る単調な作業となるが、技術ではよりよい機能を実現できる方法を求めダイナミックに作業を展開する。ヤマナカファクター発見の時に、非常識と思われるすべての遺伝子を一つの細胞に放り込んだ行動のように、大胆な作業が技術の特徴である。

 

ヤマナカファクターに比較するとゴミのような電気粘性流体の增粘の問題では、手元にある界面活性剤類似の化合物も含めすべてについて增粘した流体と組み合わせて改善の兆候を探索した。傾斜組成の粒子では、傾斜組成以外に超微粒子分散微粒子や微小コンデンサー分散微粒子など創ってみて電気粘性効果を確認し、電気粘性流体に必要な粒子の構造解析を行っている。

 

科学的に電気粘性流体のメカニズムを解析しようとしたのではなく、電気粘性効果を機能させるために様々な複合構造の微粒子を試し、どのような構造で機能が実現されるのか探した。科学と技術では問う目的、思考の方向が異なるのである。どちらが優れている、と比較する対象ではなく、研究開発で早く製品にたどり着ける方法となると技術となり、その機能実現において活用された自然現象の真の姿を問うのが科学である。

 

技術開発を行った後、科学的研究を行えば、守るべき基盤技術が明確になり、その伝承が容易となる。科学の研究が無い場合には、行為そのものを伝承することになり、特公昭35-6616に書かれた技術のように伝承されなくなるリスクが生まれる。技術と科学は目的が異なり、研究開発では両方必要である。

 

技術では科学よりも再現性のロバストが厳しく問われる。これは再現性のロバストが製品のコストに関わるからである。再現性のロバストが低い技術は実用性が無いものとして棄却される場合が多い。同じ機能を実現する技術が複数存在していた場合に技術の難易度よりもロバストの高さが重視されたりするケースもある。反応条件における論理的規則性が不明で消去法や試行錯誤で決めなければならない場合でも決まった反応条件でロバストが高ければそれは立派な技術である。iPS細胞を実現した力は科学ではなく技術であった。技術が先行し科学的に研究された一例である。

 

消去法で見出したり試行錯誤で創られた技術を軽蔑する科学者もいるが、消去法や試行錯誤は立派な機能実現のための一つの方法で、弊社ではそれを効率よく行うプログラムを提供している。消去法や試行錯誤も効率良く行えば、科学的な問題解決法に迫る方法になる。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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