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2013.10/01 フェノール樹脂の難燃化(3)

妄想を実現可能なアイデア、そして実際の研究開発テーマに仕上げるために、30年以上前に考案した弊社の研究開発必勝法でまとめてみた。その手順に従い研究開発を進めた。

 

最初に行った実験は、コストを考えず妄想が正しいかどうかを確認するモデル実験である。フェノール樹脂のソフトセグメントに含まれるフェノール性水酸基あるいはメチロール基と反応しうる活性シラノールもった水ガラス抽出ケイ酸とフェノール樹脂を混合する試みを確認した。

 

水ガラスから抽出されたケイ酸ポリマーのTHF溶液とフェノール樹脂を混合し、THFをエバポレーターで除去しケイ酸変性フェノール樹脂を試行錯誤で製造した。このような実験手順を記載した科学情報や特許など無かった時代である。ケイ酸ポリマーの抽出法に関してはセメントの改質特許を参考にした。30年以上前にそれをフェノール樹脂の変性に応用したのは世界で初めての有機無機ハイブリッド技術であり、難しそうであったが困難と捉えず萌えの感覚で実験した。

 

酸触媒と発泡剤を混合して何とかフェノール樹脂発泡体にできたのだが、驚くべきことにフェノール樹脂の脆さが著しく改善されていた。また耐火性も難燃剤を用いなくても高い防火性を持っていたリバースエンジニアリング不能なフェノール樹脂と同等であった。熱分析を行ったところソフトセグメントの熱分解挙動は消失していた。仮説とは呼べないが、こうあって欲しいと思い描いた妄想は的中していた。このように科学的では無いが目標を達成することができたので研究開発必勝法の次のステップへ進んだ。

 

3種類ほどシリカの超微粒子を用意し、フェノール樹脂に分散した。超微粒子なのでうまく分散しない。高分子界面活性剤で超微粒子を前処理して同じ実験を行ったところうまく分散した。一般にはカップリング剤で処理をする場面であるが、カップリング剤は高価である。高分子界面活性剤でカップリング剤と同様の効果が得られることをノウハウとして経験で学んでいた。経験で得られた結果を使用しているので非科学的ではあるが、得られた発泡体はケイ酸ポリマーで変性したフェノール樹脂と同様の防火性と靱性の高さを示した。

 

K1チャートでゴールまでたどり着き、特許を1件書くことができた。K1チャートの良いところは実験がうまくゆかなかった時に次のアクションが決められている点にある。そして次のアクションを実施した結果がゴールにどのような影響を及ぼすのか可視化されている点も便利だ。文面では説明しづらいがご興味を持たれた方はお問い合わせください。

 

(注)このフェノール樹脂の開発では、「ソフトセグメントを拘束したならば防火性を高められるのではないか」という仮説もどきを確認するように実験が進められたが、ソフトセグメントと防火性の関係について科学的な根拠があったわけでなく、グラフに現れた現象の一つである。ゆえに仮説もどきを科学的な仮説と同等に扱うためには多くの実験、すなわち研究が必要になる。「仮説を持って実験を行え」と指導するケースが多いが、指導される側は仮説もどきと科学的な仮説の谷間で右往左往している。むしろ、こうなって欲しいと期待して実験を行え、と指導した方が開発現場では良いのではないか。仮説という難解な言葉でアイデアがしぼむ場合もある。むしろアイデアが芽生えるような、すなわち現場が発明に「萌え」るリーダーシップが重要である。

カテゴリー : 一般 高分子

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