2013.10/03 高分子の難燃化技術とノウハウ(1)
科学と技術の相違点の一つとして、技術にはノウハウというやや抽象的概念までもあたかも定理のごとく扱い、目標とする機能を実現するところがある。科学では一つの真理を目標とするので経験的な事項や再現性があっても論理的に理解できない現象を利用することはない、というよりもそれを行ったら科学の存在する意味が無くなる。科学技術とはうまい表現でこのような相違点をうまくカプセル化している。しかし、このカプセル化が時として技術の伝承を困難にする場合があるので注意が必要である。
例えば以前この欄でも紹介したが特公昭35-6616という酸化第二スズゾルを用いた帯電防止薄膜の技術は、その周辺のノウハウとともに伝承されず、ライバル会社に1000件以上の特許を出願されて使用できない状態になっていた。公知の技術については権利化できないはずであるが審査請求された発明について異義申し立てが無ければ発明は新規技術として登録される。ゴム会社から転職した写真会社では特公昭35-6616という特許の存在までも忘れ去られ、つぶせる特許もつぶせない状態であった。
技術の伝承がなされない場合に重要な基盤技術が揺らぐ、という表現がされるが、「揺らぐ」どころではなく自分たちの開発した技術であっても使えなくなるのである。10年以上前から技術経営(MOT)の重要性が叫ばれているが、技術の伝承はその重要検討課題である。帯電防止技術の悲惨な状況を立て直しうまく伝承できる体制まで創ろうとしていた道半ばにデジタル化の波に押し流されて実現できなかったが、帯電防止技術は写真フィルムだけでなく複写機にも活用できる重要な基盤技術のはずである。しかし、それが認知されていない風土では、まずその風土を耕すところから始めないとダメであることを学んだ。
高分子の難燃化技術も帯電防止技術同様にノウハウが多く技術の伝承が難しい分野である。そもそも科学的に整理されていない技術分野は、企業の中で基盤技術として共有化されるまでの道のりが険しいようだ。トップが非科学的なノウハウの重要性を認識しない限りノウハウの塊の技術を基盤技術として育成することはできない。写真会社の経験では非科学的な内容を軽蔑する風土があり、ノウハウを職人の世界の技術のように扱われていた。非科学的な内容をあたかも科学の香りがするように努めなければいけない風土では非科学的な技術は育たない。
高分子の難燃化技術で難しいのは、対象とする商品の活用される分野が異なると難燃化規格が異なるケースが存在することである。高分子の燃焼について科学的に解明がされていない部分が多く「燃えにくい」高分子材料を科学的に完全に表現できていない。ゆえに商品の活用分野や業界が変わると難燃化規格が異なることになる。この様々な難燃化規格の存在が科学的な材料設計技術を難しくしている。明日はこの点について述べる。
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