2013.10/08 高分子の難燃化技術のノウハウ(6)
溶融しやすい軟質ポリウレタンフォームの難燃化に燃焼時の熱で無機高分子(ガラス)を生成するシステムを検討した。予想通り溶融物は落下せず自己消火性炭化促進型軟質ポリウレタンフォームが合成された。
燃焼面に生成したチャーを分析すると最表面にはボロンホスフェートが生成していた。また添加したリン酸エステルに相当するリンが検出された。熱分析を行った後の残渣でも同様に添加した量に相当するリン及びホウ素が残っており、このことから燃焼時にホウ酸エステルとリン酸エステルとの反応が推定された。
ホウ酸エステルとリン酸エステルの組み合わせについて15種類ほど添加量の違いも含め全部で50サンプル前後のホウ酸エステル変性軟質ポリウレタンフォームを合成し、燃焼実験をASTMの規格で行ったところ、すべてでボロンホスフェートが生成していること、さらに多変量解析結果でもホウ素の役割がリンと同程度であることなども示すことができた。
ちなみにホウ酸エステルだけではLOIは19.5までしか上げることができず、軟質ポリウレタンフォームに自己消火性の機能を付与することはできない。リン酸エステルを組み合わせたときだけLOIは21を越え、さらにTGA曲線の微分を観察すると熱分解速度が最大になる温度がホウ酸エステル無添加の時に比較して高音側にシフトするとともに熱分解速度も低下している。
しかし、ホウ酸エステルとリン酸エステルとの組み合わせにおいて、燃焼試験時における溶融物の状態がわずかに異なることを発見した。すなわちリン酸エステルの構造によっては溶融物がわずかに落下することもあるのだ。これはホスファゼン変性軟質ポリウレタンの時と異なる燃焼時の現象である。
この燃焼時の現象の差異がどこから起因するのか不明であったが、30年後PETの難燃化技術開発を行った時におおよその原因を想像することができた。恐らく燃焼時にガラスを生成する場合には燃焼面にガラス成分が集まり炭化促進反応が進むが、昨日のホスファゼン変性軟質ポリウレタンの場合では溶融物内部で炭化促進を行っている、と想像している。
この想像は現象を観察した結果であり科学的ではない。しかし、燃焼時に樹脂の分解、溶融という現象は熱可塑性樹脂の場合に必ず発生するので難燃剤の機能発現の場がどこであるかは重要である。科学的ではないが、ノウハウの知識として身につけておく必要がある。
(注)ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームについては科学論文に投稿したが、ホウ酸エステル変性軟質ポリウレタンフォームはその後商品化されたために論文発表できなかった。但し学位論文には掲載許可が下りたのでそちらにまとめてある。また一部クローズドセミナーで発表しておりその予稿集には多変量解析のデータと解析結果が掲載されている。
pagetop