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2013.11/08 樹脂補強ゴム(2)

指導社員の完璧な企画書で欠けていたのは、どの銘柄の材料で目標を実現できるのか、という答である。指導社員に質問したら、それが見つかればこのテーマは終了だという答が返ってきた。シミュレーションはあくまで仮想の物性についてその組み合わせを計算しただけであり、実際の材料について材料メーカーの技術資料にその情報が書かれていないから、まず材料のデータベースを蓄積する必要がある、と言われた。

 

データベースを作る意味があるのか、と尋ねたら、シミュレーションした結果の再現性を確認する目的にデータを収集するのでデータベースには意味が無く、物性を実現できる処方さえあれば良い、と明確な回答を頂いた。テーマは防振ゴムに最適な樹脂補強ゴムの開発だが、問題を整理すると市販されている樹脂とゴムの最適な組み合わせを見つける問題になる。

 

このような問題では、最適な組み合わせが存在しない場合には1年経っても問題解決できないことになる。シミュレーションではできることになっているが、シミュレーションに用いられた粘弾性曲線と仮説どおり一致する樹脂なりゴムが見つからない場合には不可能ということになる。もし最適な組み合わせが存在するならば、それを早く見つけることが最も重要な仕事になる。

 

シミュレーションデータを一晩眺めながら、実験時間を短縮できる評価法を考え出した。すなわち材料を製造するプロセスの時間短縮は難しいが、評価法はサンプル数を減らしたり評価時間を短くしたりすることで短縮できる。テーマで最も時間がかかるのは公開情報の無い粘弾性データの収集で、1サンプルの準備から結果が出るまで4時間かけることになっていた。それを20分ですませる方法を考案した。

 

指導社員に実験の進め方の変更を願い出たら了解が得られたので、その方法で実行したら2ケ月でシミュレーションに合致した材料を見つけることができた。即ち1年間のテーマを3ケ月で終了できそうな見通しが得られた。ところが完成した処方を指導社員の了解を得ないで上司が後工程にプレゼンテーションしてしまったので問題が起きた。すぐに商品企画会議でその処方をエンジンマウントに使うことが決定され、研究所のテーマではなくなった。すなわち残り10ケ月の仕事が無くなったのである。

 

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(注)当時研究所はすでに成果主義のマネジメントが行われていた。実験手順も決まっていた完璧な企画書を前に、新入社員の立場で成果というものを考えたところ、開発期間を短縮することぐらいしかなかった。上司に確認したところ、もし年内(3ケ月)に処方が見つかればボーナス倍増ぐらいの成果、という冗談が飛び出した。その言葉に挑戦します、と応えたら上司は笑っていたが、後日本当に冗談だったのでモチベーションが下がった。明日はこのあたりについて。

 

また、弊社で研究開発必勝法プログラムを販売しているが、そのアイデアの基本構想はこの頃できた。指導社員の完璧な企画書は、確実に開発期間を短縮できる、と感じた。その企画書には、開発ターゲットが明確に記され、それを探索する手順まで示されていた。すなわち、開発ターゲットが明確になると、探索手順は複数あることに気がつく。明確な開発ターゲットの機能を実現する目的だけに絞ったときの手順は極めて簡素化される。iPS細胞を実現するヤマナカファクター発見に用いられた発想法である。

 

しかし、実際に開発計画を組む場合には、定常業務品である質評価の一部を取り入れて行う場合がほとんどである。開発ターゲットから考えを進めないからである。荒削りでも良いから最初に開発ターゲットを実現してからそれに合わせて社内規格で要求されるデータを集めれば開発時間を大幅に短縮できる。要するに数研出版のチャート式数学に書かれていた「結論からお迎え」というチャート式格言は受験数学だけで無く実務でも有効である。

 

弊社の研究開発必勝法は、「結論からお迎え」という格言を実務の中でどのように展開するのか、32年間の開発経験をもとにノウハウを一般化したプログラムである。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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