2013.11/15 化学産業の課題と今後の政策対応の方向
昨日高分子同友会講演会で表題の講演を拝聴した。経済産業省化学課長茂木正氏が化学産業の現状と未来についてまとめられた成果の講演である。現状分析についてうまくまとめられており知識の整理に役立った。
このようなうまくまとめられた講演を伺うと、見落としていたところなどが改めてクリアになる。ただ講演者の立場から原発について踏み込んだ内容は当然語られていない。3.11前後で原発政策の見直しが必要になった、という程度である。実は3.11前後で変わったことは多数あり、3.11がサラリーマン最後の日であった当方は身に染みて感じている。
小泉氏が脱原発を叫び始めたが、将来の脱原発についてはもう国民の総意ではないだろうか。原発が一度事故を起こせば経済的な損失は計り知れなく、最終処分場の話も含め本当はエネルギー価格が大きな発電方法ではないかと国民は疑っている。ただ、今どうするか、これが議論の分かれるところで、こわごわ脱原発を達成できるまで原発を使うのか、第二の福島が発生したら日本は終わり、と考え原発をやめるのは「今でしょ」、という判断が難しい。
しかし、この難しい判断について国会で決められるように明快な指針となる情報を経産省は出すべきと思っている。すくなくともこの判断ができる情報だけでも経産省はまとめる義務がある。
化学産業を巡る状況は現在厳しさを増すばかりであるが、経産省がエネルギー自給自足政策の可能性について打ち出せば新しい産業が動き出す下地ができはじめている。すなわちエネルギー自給自足に役立つ産業に対して将来投資を国が行えば、化学産業にもその波及効果が及ぶ。なぜならエネルギー自給自足を推進するためには化学産業が中心にならなくてはいけないからである。
仮にこの4-5年発電コストが急激に上昇したとしても20年先にはそのコストが回収される。しかし、民間ではそのような息の長い投資は不可能で国のレベルでやるべきである。今までの産業は原料を海外から輸入して発電し、その発電エネルギーで付加価値を出した製品を作り輸出するのが20年前まで資源の無い日本の有効な戦術であった。付加価値を出した製品を輸出する戦略そのものは今でも有効で、ただ化学産業はその戦略の中で高度成長期に損な役割に置かれていただけである。
これは、アッセンブリー企業における材料屋は下請けとなり良い処遇を受けられないという経験から出てきた視点である。例えばPPSと6ナイロンを相容させる技術を開発しても評価されず、それを複写機の部材である中間転写ベルトに仕上げて初めて成果として認められる状況は化学産業とよく似ている。
化学産業は素材産業から部材産業へ転換する機能性化学の道をこの20年歩いてきたが、ここへさらに国がエネルギー自給自足政策という方針で投資すれば、化学産業も大きく発展する。エネルギー自給自足が可能か不可能かという議論は無意味で、それを実現しなければ島国日本は生き残れない、と考えている。またそれができる環境と技術の下地がこの2年半の間にできてきたのである。3.11を不幸な出来事のまま終わらせるのではなく、日本のエネルギー政策を大きく舵きるきっかけとして位置づけ、その後の日本が幸せになる、というシナリオを作れるのは経産省である。
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