2013.11/27 ゴム技術と樹脂技術
32年間の材料開発で、セラミックスや金属、高分子材料まで担当し、金属以外の2つの材料分野で日本化学会や写真学会、化学工業協会、印刷学会などから賞を頂ける技術を研究開発成果として出すことができた。学位論文にはセラミックスと高分子材料のプロセシングがまとめられており、審査してくださる大学を探すのに苦労した。その過程で学位取得の裏側事情も知ることになり、学位というものが世間で評価されない理由も理解できた。
30歳を過ぎるまで物事の裏側事情など考えずに純粋に生きてきたが、学位取得の苦労で学問というものにも裏があるという現実に愕然とした。今は年を重ね、世間の多少のことには驚かなくなったが、当時はその裏側事情に接する度に驚きが新鮮な興味に変わっていった。
高分子材料技術にも裏側事情があり、例えば成形技術とコンパウンド技術の関係は面白い。前者の学会に参加し、その技術分野の最終ゴールを質問すると「どのようなコンパウンドでも成形できる技術」という回答が返ってくる。もの凄い理想であると同時にこの学問は永遠に完成しない、だから研究者は食いはぐれは無いだろう。学問として正しいゴールかどうかは知らないが、研究テーマに困らないゴールである。
後者は担当している材料により研究者の答は様々で、新材料を追求するというミッションを答える研究者が多い。高分子には多数の種類があるので組み合わせは無限に近く、こちらもテーマに困ることなく永遠に研究開発を継続できる分野である。
ところでタイヤのような高性能なゴム製品のプロセシングには未だに生産性の悪いバンバリーとロールが混練プロセスで用いられている。しかし、樹脂材料やTPEでは生産性の高い二軸混練機が用いられる。高性能ゴムに生産性の悪い混練プロセスが用いられているのは、そのプロセシングを用いなければ性能を出せないからである。すなわち、この事実は混練プロセスがコンパウンドの性能に大きく関わっている、ということを示している。
退職前の5年間外部の樹脂メーカーと性能の悪い樹脂について何度も議論したが、混練技術に問題は無い、と最初に必ず回答が返ってくる。すなわち樹脂の性能品質がお客様のニーズに合わない原因として混練技術は最初に除外事項とされてしまうのである。純粋な若僧であれば樹脂メーカーの技術者をうっかり信じてしまうが、成形技術を担当した時はその様な年齢ではなかった。
納期が目前に迫っていたあるテーマで、混練プロセスの中古機を買いそろえ3ケ月で生産立ち上げを行う、という離れ業をした。その時には同じ材料メーカーの原料を用いながら混練プロセスを変更しただけで、それまで樹脂メーカーが実現できていなかった性能を簡単に実現できた。
混練プロセスの変更に伴うコンパウンドの価格は、内製化のため原料の価格と設備の固定費で決まる。この時、樹脂メーカ-が混練プロセスを変更したくなかったのはコストへの影響のためだが、わずかなコスト上昇を躊躇したために、お客様の内製化という決断を引き出し市場を失うという結果になった。
混練プロセスの変更は利益を圧迫するので対策として採用したくない、というのが裏事情である。お客は混練プロセスなど知らないから問題ないとごまかせば、それで済む、と安直に考えたのか、その樹脂メーカーの技術レベルが低かったのか知らないが、どんなことがあっても混練プロセスを変更したくない、という裏事情が樹脂技術にはあるようだ。
混練プロセスの変更は多くの場合コスト上昇となるが、この時の内製化技術ではコストへの影響を最小限とする方法で対応した。退職した会社から特許がすでに公開されているが、二軸混練機の先に弁当箱のような装置をつけただけである。ゆえに生産性への影響はほとんど無くコスト上昇は弁当箱の固定費分程度である。この弁当箱のような装置にはゴム技術で学んだ知識が詰められている。この弁当箱に興味のある方は問い合わせください。
pagetop