2013.12/03 混練機構(4)
混練時に樹脂に働く力は伸張流動と剪断流動の組み合わせで表現でき、分配混合と分散混合で混練は進行する。それでは、どのくらいの時間混練を行えば良いのだろうか。あるいはどれだけ混練を行えば、それ以上混練を進めても無駄である、という状態になるのか、このことを詳しく書いた教科書を見たことがない。ただし、混練された結果の写真は、学会報告などで度々登場する。
ゴム会社で指導社員から教えて頂いたのは、指導社員が混練したサンプルと同じ物性になったときが混練状態の最良の状態ということであった。指導社員が用意してくれたマスターバッチのゴム20kgを見て驚いたが、100g前後で練習しゴールを達成したときに、ほとんど無くなっていたことで混練の難しさを理解できた。
その練習期間に物性の変化を見ると、引張強度はじめ諸物性は向上するが、興味深かったのは、混練の「技」の習熟度が進むと圧縮永久歪などの耐久試験で著しく改善が見られたことである。周囲が「いじめ」と茶化したのは、練習に用いたゴムの処方が高い混練技術を要求される処方であると皆知っていたからだ。他の新入社員は簡単な処方から練習するが、いきなりウルトラC級の「技」が要求されるゴムで練習させられていたので「いじめ」とみられたのである。しかしおかげで混練がどういう「技」なのか体で理解することができた。
ゴムの処方では、カーボンブラックを補強用フィラーとして添加する。ロール混練だけでカーボンブラックを分散するのは、ゴム種によっては少し大変な作業となる。すなわちカーボンブラックのカミコミの悪いゴムではロール周辺を汚し掃除が大変なのである。バンバリーを用いると5分もすれば、どのようなゴム種でも見かけ上分散したように見える。しかし、電子顕微鏡で見ると様々な大きさのカーボンの凝集体が分散しているだけである。
これがロール混練されるとある分散を持ったカーボンブラックの凝集体だけとなる。コロイド化学をご存じの方であれば、この様子は目に浮かぶかもしれない。コロイドとしての性質だけでなく、カーボンにはストラクチャーと呼ばれる製造条件由来の構造があり、一次粒子のサイズまで高分子中に分散を進めることは不可能である。また、カーボンのストラクチャーの単位まで分散を進めることも困難で、高分子中におけるカーボンの分散は凝集体で分散することになる。
その結果どこまで混練を行えば良いのか、という問いに対しては、平衡で決まるカーボンの凝集体のサイズまで行えば良い、というのは一つの答だが、そのサイズとはどのように考えればよいのか、という新たな問題が生じる。(明日に続く)
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