2013.12/18 高分子の相溶(2)
高分子ガラスには、DSCを測定した時にTgが現れないことがある、と昨日書いたが、不思議な現象ではないのだろうか。無機材料では、アモルファス相でTgを持つ物質をガラスという、と明確に書いてあるが、高分子ではすべてTgを持っている前提になっている。そのためこのTgを示さない高分子アモルファス相について、ほとんど研究が進んでいない。
例えばAとBの高分子を相溶させたときに、Aの高分子のTgとBの高分子のTgが一つになった時にAとBの高分子は相溶している、と判断され、電子顕微鏡で一相になった様子を観察した結果が示されている。粘弾性で測定されるTgも同様に一つになる。またTMAで観察されるTgも一つになり、アモルファス相でAとBがガラス相で一相になっている、と同定できる。
それではTgが観察されない高分子のアモルファス相はどのような状態だろうか。やはりガラス相と同等に扱うべきという考え方で少しトリックを使いTg変化をチャートにだすような測定方法で良いのだろうか。それとも無機材料のようにガラスではなく単なるアモルファス相と扱うべきではないだろうか。高分子の相溶現象はアモルファス相で生じるのだが、このアモルファス相の理解を進めなくてもよいのだろうか。
光学用樹脂として有名なアペルやゼオネックスは非晶性樹脂として知られているがこれはウソである。ただしこのウソは今年話題になったホテルの食材偽装と性格は異なり、材料を供給しているメーカーの技術水準を問われる問題だが、少なくとも10年前のアペルやゼオネックスはある条件で結晶化させることができた。そしてわざわざアペルやゼオネックスの結晶を作って営業担当にこの問題の回答をお願いしたがいずれも回答を頂けなかった。この2つの樹脂には、世間であまり知られていない技術に関わる問題を引き起こす物性が隠れている。そのため品質問題が起きても迷宮入りとなる。
アペルを非晶性樹脂として扱う技術上の問題については、とことん実験を行い理解を深めた。ゼオネックスについてもその問題の幾つかを実験していたが、PPSと6ナイロンの相溶を扱うようになって時間が無くなり、非晶性樹脂とうたっている怪しいベールの全てを剥がすことができなかったが、結晶化させることができたのでこれも結晶性樹脂といってもよいと確信している。そしてその結果ゆえに引き起こされる問題をゼオネックスもアペル同様に内在している。
さてアペルであるが少なくともそのアモルファス相(非晶相)は2つある。一つのアモルファス相はTg以上で膨張する相であり、他の相は収縮する。そしてこの比率は射出成型条件で変化する。そして時々起きる偶然がTMAで観察される見かけ上のTgを30℃以上も引き上げる。TMAのTgは高く観察されるが面白いことにDSCのTgはほとんど変化しない位置に現れる。
アペルのアモルファス相の不思議な現象からアペルにポリスチレンが相溶するのではないか、と考えた。理由を簡単に説明するとフローリーハギンズ理論の見かけのχが大きな組み合わせでもコンフォメーションを安定化させる錠と鍵の関係になれば、自由エネルギーが下がり(χが小さくなり)相溶する可能性がある、と考えた。これはフローリーハギンズ理論で説明されているようなモノマー単位の親和性ではない立体の安定化の要請から生じる現象である。
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