2013.12/20 高分子の相溶(4)
PPSと4,6ナイロンについてOCTAでχを計算すると0.0006となる。限りなく0である。だからPPSと4,6ナイロンの相溶実験の動機になる。これは高分子の研究者であれば常識的な研究動機である。6ナイロンでは0.14となり非相溶系と予想される。この数値から相溶性を期待する研究動機はアカデミアで起きない。
しかし、アペルとポリスチレンの相溶を実現した着眼点から現象を眺めると、フローリーとハギンズが見ていた世界と異なる情景が見えてくる。E.S.ファーガソンによればこれを心眼と呼ぶそうである。アカデミアで心眼の話を行うのは気が引けるかもしれないが、技術者がこの心眼を十分に活用するとイノベーションを引き起こすことができる。換言すれば科学で解明されていない現象でも心眼で成功が見えたならば技術者はそれを実行すべきである。
東工大扇沢研究室で行われた実験は、相溶の窓が開かれるところを直接観察する実験である。すなわち二枚の円平板でPPSと4,6ナイロンの混合物を挟み、回転させながら温度を上げて透明になる現象をビデオカメラで直接観察できる装置で実験を行っている。論文では、310℃の時、円板の周辺で透明になる現象が観察された、とある。
この研究レポートでは、310℃で相溶の窓が開いた、と結論づけられているが、剪断速度が関係しているとも書いている。すなわち温度だけで論じられるχパラメーターであるが、相溶という現象に剪断速度が関係していることを示す、すなわちフローリーハギンズ理論で説明されていない相溶パラメーターの存在を示す価値あるレポートである。
このレポートの結果とアペルとポリスチレンが相溶した結果と重ね合わせると、プロセシングで高分子を相溶させるアイデアが見えてくる。プロセシングで発生する結晶相についての研究は存在するがアモルファス相の研究はない。
結晶相についてはシシカバブというトルコ料理の名が付いているラメラからできた有名な結晶がある。学生時代にシシカバブの意味を質問したら回答できなかった高分子合成の教授がいたが最近は写真の入った教科書も存在する。そこまで結晶については丁寧に説明されているが高分子アモルファスについては自由体積ぐらいであまり研究も進んでいない。相溶は高分子の場合アモルファス相で生じる現象である。
温度が高く剪断速度が速い樹脂の流動状態のアモルファス相がどのようなものか知らないが、この条件で急冷処理したPPSは何故かアモルファスとして得られる。そしてそのアモルファスの密度は結構低いのである。すかすかの状態で混練されたときに4,6ナイロンだけでなく「4,」がとれた6ナイロンが相溶しても良さそうである。「4,」が取れるといっても熱分解するわけではなくPPSと6ナイロンをカオス混合するのである。
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