2014.01/16 材料のカテゴリー
本に書かれたTPEの分類がわかりにくい、最も大きいくくりは、樹脂とゴムとの複合体である、と昨日書いた。材料に限らず物事のカテゴリーを決める、という作業はコンセプトの影響をうける。すなわちTPEを開発するときに、TPEをどのように捉えるかはゴールイメージに影響を与え、さらに開発しようとする材料スペックに制限を加えることになりかねない。
30数年前開発した樹脂補強ゴムの中には熱可塑性を示すゴムも存在した。熱可塑性を示すにもかかわらず、圧縮永久歪や引張耐久試験の結果は一般のゴムと同等レベルであった。現在二軸混練機で動的加硫を用いて製造されているTPEとは比較にならないレベルであった。
詳細はここでは述べないが、これはコンセプトが異なると同じような高次構造のゴムでも物性が大きく異なる例である。樹脂補強ゴムは処方設計のコンセプトが、一般のTPEの教科書に説明されている考え方と異なる。どのように異なるのか、という点は問い合わせていただきたい。とにかく電子顕微鏡で見る限り区別のつかない構造のゴムが物性で大きく異なる不思議な現象は体感しないと分からない。
以前樹脂補強ゴムの開発を担当し悪戦苦闘した話をここで紹介したが、周囲からは、新入社員が指導社員にいじめられているように見えるほどの難しい技術ノウハウを含んでいる。面白いのはそのノウハウは指導社員が自ら実験を行い獲得した技術であり、当時の社内でそれを伝承されたのが新入社員一人だった、ということだ。
技術の伝承がうまく行われない会社では、高度な技術が自然消滅してもそれに気がつかない。生産ラインでトラブルが発生し、その対策に悪戦苦闘して初めてノウハウの重要性に気がつく。属人的技術は人材を大切にし、その伝承を促す環境を作らない限り企業の中に根付かない。フェロー制度は20年前勤務したころのゴム会社に無かったが、良い制度を生み出したと思う。しかし、独特の材料哲学を持った指導社員は、フェロー制度ができる前に定年退職している。
材料のカテゴリーは、動植物の分類よりも難しい。材料の見方、考え方が異なればその数だけカテゴリーの構造が存在するはずだ。それを一つの枠組みで統一しようとするのは、技術をわかりにくくする以外に新たなコンセプトを生み出す時に障害となる。材料の新陳代謝を促すためには、材料のカテゴリーを固定化しないことだ。多くのTPEの教科書は、偏った材料の見方をしているように思われる。
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